20 叫び
ナオヤくんの、悲鳴のような叫びが響き渡った。
「魚が、陸でも暮らしていいと言われて、できますか? 赤ん坊に好きな場所に行けと言って街中で放して何ができますか? そんなものは放逐……責任放棄と同じだ。それと同じように、僕だって他の道なんて見いだせないんです。あなたの業だって言うなら、自由なんて言葉を楯に目を背けず、『潔く死ね』とでも命じてください……!」
その言葉は、おばさんと私、両方に深く突き刺さった。
おばさんは愕然としていたけれど、私は、色々な事がするすると解けていくような気がしていた。こんな時にどうしてそんな、と思うけれど……胸の内にかかっていた靄が晴れていくようだった。
そうだ。お父さんは、目を背けていたんだ。それはお母さんも同じで……そして私自身も、大事なことから目を背けていたんだ。
そう気付いた時、私は、無意識のうちに一歩踏み出していた。そして、両手を目一杯に広げて、その中にナオヤくんの体を収めるように、抱きしめていた。
「ひ、ヒトミさん?」
「ありがとう」
そう言うと、ナオヤくんは目を丸くしていた。
「私も、目を背けてたって気付いた。だから、わかったことがある」
「何を、ですか?」
「私たちは、同じだってこと」
ナオヤくんは、辛そうに顔を歪めて、そっと視線を逸らせてしまった。
「違いますよ。あなたはもっと……」
「同じだよ。私もナオヤくんも、オリジナルになる以外の道を知らない。なのに自由なんて言葉を都合良く使って、放り出そうとしてる親に怒ってるの。自分たちが、灯りなんて一つもない真っ暗闇の世界に捨てられるような気がして、怖いんだよ」
「真っ暗闇……」
頷くと、彼の心臓が大きく跳ねたような音がした。
「それに、怖いあまり、ナオヤくんも目を背けてる」
「僕が?」
「私たちは、たぶん、もうただのクローンじゃない。誰かの代わりじゃない。おばさんも……たぶん私の両親も、何も知らないところに捨てようとしてるんじゃない。ちゃんと見守ろうとしてくれているよ。でも怖くて仕方がないから、自分は厄介者で一緒にいる資格がないから捨てられるんだって思い込もうとしてる」
ふと顔を上げると、ナオヤくんはじっとおばさんを見つめていた。そこには戸惑いが浮かんでいた。怖い、けれど信じたい……そんな二つの思いがせめぎ合っているように見えた。
もう一度、彼を包む腕にぎゅっと力を入れた。伝わっているだろうか。
「ちゃんと気付いて、受け止めよう。ナオヤくんは、大事に思われているんだってこと」
思い切り抱きしめてから、手を離した。だけど自然に、ナオヤくんは私の手を握っていた。その手は震えていたけれど、視線は、おばさんから逸らしていなかった。




