19 絶望
私とおばさんは、何度も目を瞬かせていた。
それに対しナオヤくんは、瞬き一つせずに、私とおばさんを静かに見つめていた。
「だって、これ以上、僕がここにいる意味はありませんから」
思わず、おばさんと二人、顔を見合わせてしまった。だけど、どちらもとも、彼が何を言っているのかわからないでいた。
「本当は夜中にこっそり行こうと思っていたんですが、お二人に一言もなしに行くのは、さすがに失礼かと思いまして」
「……挨拶さえしてくれれば、笑って見送ると思ってるの?」
思わず、咎めるような強い声音になってしまった。それでもナオヤくんは優しく「いいえ」と言って微笑んだ。
「ヒトミさんなら、止めるだろうなと思っていました」
「うん、止めるよ。何言ってるのか、全然わからない……昼間、私が言ったこと、伝わってなかった?」
「伝わりましたよ。ヒトミさんに加地くんと弓槻さん……皆さんとても親切だということが、よく伝わりました」
「伝わったんなら、なんでそんなこと言うの?」
「伝わったからこそ、です。僕はこれ以上、身近にいる人たちを傷つけたくない。いや、違うかな……」
ナオヤくんの微笑みが、崩れた。無理をしながら、くしゃっと、深海くんのような笑みを作ろうとして、失敗していた。
「僕は、尚也のように純粋に皆を照らす太陽になろうとした。でも、できなかった。そんな惨めな姿を、これ以上晒したくないんです」
なんて、情けない声と言葉。これが、彼の心なんだろう。
そんなナオヤくんに、おばさんは愕然としながらも、言い募る。
「惨めだなんて、思ってない。誰がそんなこと思うもんですか」
「自分の存在意義を果たせない人間を惨め以外になんと言うんですか」
おばさんが縋るように差し出した手を、ナオヤくんは振り払った。どちらもが、自分の手を見て戸惑っている。おばさんは振り払われて。ナオヤくんは、振り払ってしまって……。
「存在意義……それは、あなたが尚也の複製・再現体であるということ?」
「……そうです。僕はそのために生み出され、生き残ったのですから。だけど僕は、その生み出された理由すら、果たせそうにない」
「そんなの、もういいって言ったでしょう。あなたはあなたのやりたいように自由にって……」
「そう言われたからこそ、尚也を目指したんです。僕はそれしか知らないんです。それが義務で、一生の役目だと刷り込まれてきたんですから」
「それは……あなたに尚也になれと言ったのは、私の業でしかないのよ。そんなもの押しつける気はないと言っているの。そんなもの、無視して自由に生きていいのよ」
「できないんです……!」




