9 愛のリスト
ぺこっとお辞儀をするナオヤくんに、私もどうしてかお辞儀を返してしまった。すると「では……」とナオヤくんが続けた。
「あなたの話も、お聞きしていいですか?」
「私の話なんて別に……」
「何故先ほど、わざわざ自己紹介を動画として撮影していたのですか。それも、わざわざ自身の紹介動画を撮った後に、あなたの『姉』である天宮愛さんの分まで撮っていたのでしょう。不可解なことが重なりすぎています」
どうも、逃がしてくれそうにない……。
私は、ため息を一つついて、諦めた。
「自己紹介動画を撮ったのは、高校の春休みの課題だから。それと……まぁ自己満足もある」
私はリスト端末から、メモファイルを開いた。ナオヤくんは瞬きしながら、それを見つめる。
「これは?」
「愛のリスト」
「……愛さんの?」
ナオヤくんは静かに、感じ入るように、その名を呟く。
「私は……私もクローンで、実子登録済み。愛が生まれて一年後に心臓疾患が見つかって、慌てて生成されたの。それ以降、愛は体に負担を掛けないように静かに穏やかに、私は健康に逞しく、教育されてきた」
ナオヤの視線がほんの少し動いた。何かに、気付いたのかも知れない。
「私は『妹』として登録されたけど、お母さんのお腹の中で育ってない。人工育成器で愛の出産時まで育てられて、親に引き渡された。愛より健康になるように。それって愛の分まで生きろってことなのかと思ってた。でも違った。愛の余命が短いって知ったお母さんは、私にドナーになれって言った……私は、愛の体の『スペア』だったみたい」
――お前は、愛の妹じゃない。愛に何かあったら、腕や足、体のどれでも愛にあげる……そのために、生まれたんだよ。
三歳か四歳の頃に、親にそう言われた。よく、覚えてる。私のすべては私自身のものじゃないのだと、その時知ったのだ。
ナオヤくんは、少しだけ考え込んで、口を開いた。
「ですが、実子登録されたクローンからの臓器等の移植行為は禁止されているはずです。あなたの言った『スペア』扱いでのクローン生成を防ぐように、と」
「そう法律で決まったのは、何年か前でしょ。私が実子登録された時には、まだその法律はなかったの。そして、愛は死んだ。大人になるまで生きられないって言われていた通りに、若くて可愛いまま死んじゃった……私が、代わってあげられなくなっちゃったから、死んじゃった」
言ってしまった。こんなことを言っても何にもならないのに。言ってしまった……。
「このリストは、愛が残していたの。いつか元気になったらやりたいことを書き残した、愛の希望がつまったリストなの」
「……なるほど」




