6 恩人
弓槻さんの嗚咽の合間を縫って、加地くんもまた、手を挙げてそう言った。
「俺の場合は昔の知り合いとかじゃ、全然ないけど……」
そう言って、加地くんもまたなんだか苦笑いに似た表情を浮かべていた。
「でも、いつも気に掛けてくれるよね。ありがたいけど……どうして?」
「たぶんヒトミ以外でも、同じようにしたとは思う。でも偶然、ヒトミのパーソナルデータを覗いちゃったことがあってさ。それからなんとなく、ヒトミが気になってた」
加地くんは、恋愛とかそういうんじゃないけど、と笑って付け足していた。
「職員室に用事があって、そこで生徒のデータを見てる先生がいてさ……偶然見えたのが『天宮ヒトミ』のデータで、他の生徒には書かれてない番号が書かれてた。クローンの管理番号が、さ」
「……クローンて、気持ち悪いって、思った?」
「まさか。その逆。俺、クローンだってわかった相手は、なんとか力になりたいって思って……でもなんかヒトミって話しかけてくるなって雰囲気で……気付いたら二年になっちゃってて……」
あの面倒見が良くて溌剌とした加地くんに、そんなことを思わせていたとは。私は、自分で思っていたよりずっと根暗だったらしい。さすがに反省しよう。
でも、それにしたって疑問は残る。
「あの……クローンの力になりたいって、どうして?」
そう尋ねると、加地くんはおもむろにシャツのボタンを外して、胸もとを開いて見せた。心臓の近く……胸の真ん中に大きな傷跡があった。ケガにしては真っ直ぐで、規則正しい縫い目のついた傷跡……手術痕だ。
「前にも言ったと思うけど、俺、小さい時に移植手術受けたんだ。クローン生成も人工心臓も、金がないからできなくて、ドナーの順番待ちでようやくって感じで……」
以前に海に行った日と同じく、加地くんは晴れやかな顔で話す。
「俺は、めちゃくちゃ感謝してる。ドナーがいてくれたおかげで、俺が今、ここにいるんだからさ。ただ……そのドナーの人はさ、可哀想で……」
加地くんに移植されたのは心臓らしい。ということは、もとの主は心臓を失うということ。もしくは、心臓を必要としなくなっていたか……。
「俺に心臓をくれた人……たぶんヒトミとオリジナルの人と、同じだったみたいだ。生まれてすぐにクローン生成されて、いざと言うときのスペア……みたいな?」
私を気遣うように、加地くんは言う。気にしないでと仕草で伝えたけれど、やっぱり申し訳なさそうな顔のまま、続けていた。
「聞いた話だと、オリジナルとクローン、二人同時に事故に遭って、オリジナルは命に別状はなかったけどだいぶ重傷で、クローンの方は体は無事だけど、脳死状態になったんだと。その時はまだ法律が改正されてなかったから、クローンからの移植は可能だった。それでオリジナルに必要な内臓とか色々移植して……残った心臓をどうするかって話で、ドナーとして見知らぬ別の子どもに贈るってことになったらしいんだ」
そして、加地くんは自分で自分を、指さした。
「それが、俺」




