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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter5 あなたたちとは違う
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5 昔のヒトミ

「……え、そうだっけ?」

「そうだよ。他のチームも観客も、全員びっくりして声も出なかった。だいぶ引き離された最下位だったのに、ヒトミちゃんが走り出すと、ぐんぐん距離が縮まっていくんだよ。本当、ごぼう抜きで……あっという間にトップでゴールしちゃったんだよ。忘れた?」

 完全に、忘れていた。たぶん、その頃は愛の容態が常に気になっていて、リレーの件は頼まれて仕方なく引き受けただけのお仕事程度にしか考えていなかったんだと思う。

 だけど、弓槻さんは覚えていた。

「凄かったんだよ、ヒトミちゃん。チームの垣根とか全部超えて、皆が褒め称えてた。本当に、キラキラ輝いてた。だけど、ヒトミちゃんは歓声なんてまるで聞こえてないみたいで……たった一人しか見てなかった。観客席にいた、同じ顔の女の子のことしか」

「……あ!」

 おそらく愛だ。その頃は療養施設にいて、体育祭の時に外出許可を貰って来ていたんだ。だから、周りの歓声どころじゃなかったんだ。

 なんとなく覚えている。あの時、ゴールした私を、愛が観客席から凄い凄いって褒めてくれて……それが、とっても嬉しかった。

「あの時に、わかったの。ヒトミちゃんはあの女の子のために生きてるんだって。そのために、自分を殺してるんだって。その後、お姉さんが亡くなって、それが実はオリジナルでって聞いて……悔しくて」

「悔しい? なんで?」

「わからない? ヒトミちゃんはね、凄い人なんだよ。今既に、すっごく光り輝いてる人なの。それが『クローン』だっていう、ただそれだけの理由で、日影にいなきゃいけない。影になりきらなきゃいけないなんてさ……おかしいじゃない」

 弓槻さんの叫びは、空に響いた。行き交う車の音と混ざり合ってもまだ余韻が残る。

「……その、体を鍛えてたのも全部、影になりきるのに必要なことだったから……」

「でも今はもう、いいじゃない。これ以上、誰の影にいるの? オリジナルの人は、もう……!」

 それ以上言おうとする弓槻さんを、私は止めた。今度は私がぎゅっと手を握って、その目をまっすぐに見つめて。

「それ以上は、言わないで。お願いだから」

 弓槻さんは、言うのを、やめてくれた。その代わり、悔しそうに別のことを話した。

「私、ずっとヒトミちゃんと話したかった。たぶん……憧れてた。でも声を掛ける勇気がなくて、遠く離れた高校まで、ついてきちゃった……とんだストーカーだね」

「ううん。そんなこと、思わない。ありがとう」

「……深海くんが転校してきた次の日、ヒトミちゃん、すごく楽しそうだった。初めて見る顔で……すごく良かったなって思って、同時になんだか悔しくて……それで、無理矢理声かけちゃった」

「そのおかげで、毎日すごく、楽しいよ」

「そっか……私、ちょっとは役に立てたんだ。良かった……!」

 弓槻さんは、堪えきれないように、涙を溢れさせて、そのままうずくまってしまった。

 私に見せていた明るさが、過去の私と繋がっていたなんて、知らなかった。愛しか見えていなかった私を、見ていてくれた人がいたんだ。

 私は、幸せだったんだ。そう、気付いた。

「……俺も、ヒトミの父さんと弓槻に、賛成」


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