3 父のコール
「悪いことじゃ、ないんだよ。本当に」
「俺も、そう思う」
弓槻さんがそう言う。つられて加地くんも、頷きながら言った。でも、それだと何かおかしい。
「……たぶん、ナオヤくんも同じだよね。でも朝コールを受けてから、ナオヤくんは何か悩んでた。最後には、あんなこと言ってた……悪いことじゃなくても、三人を悩ませるような内容?」
弓槻さんと加地くんが顔を見合わせて、迷っている。
「できれば、教えてほしい。悩ませるようなことだったの?」
我知らず、詰め寄っていた。できれば、なんて言ったけど、教えて欲しい。
私に詰め寄られて、弓槻さんは観念したように肩を落とした。そして、深呼吸してから、ぽつりと呟いたのだった。
「ヒトミちゃんがクローンだって、はっきり教えてくれたんだよ」
昔ならいざ知らず、今はパーソナルデータを開示さえしなければ、クローン生成番号の有無を知られることはない。その義務もない。
誰がクローンであるか、知っているのは教職員と一部の生徒くらい。それでも『番号』を持っていると噂になると、途端に距離を置かれる。そんな状況だ。
私が既に話していたとはいえ、家族が勝手に話していいようなことじゃない。
「お父さん、どうしてわざわざ……!」
「違うよ、ヒトミちゃん。ヒトミちゃんを悪く言うようなコールじゃなかった。絶対にそうだって、私は思う」
「弓槻さん……だったら、他に何を言ったの?」
「色々難しいこと言ってたけど……要約するとたぶん、これからも仲良くしてやってくれってこと……だと思う」
「……え?」
ますますわからない。どうして、わざわざ?
首を傾げていると、加地くんがその言を継いでくれた。
「俺たちはヒトミがクローンだって知ってたけど……ヒトミの父さんはさ、不安だったみたいだぜ」
「不安? 何が?」
「そりゃ、側にいるのがクローンだって知っても仲良くしていられる友達かどうか……じゃね?」
「……え? ちょっと待って、わからない。なんでお父さんが、そんなことを?」
「落ち着いて」
困惑する私の手を、弓槻さんが優しく捕まえて、両手で包み込んだ。
「あのね、言われたことをできるだけ思い出したまま話すね。まず最初に、うちの娘と仲良くしてくれてありがとう……ってお礼言われた。でもすぐに、娘はクローンとして生まれた身だということは知っているかって、聞かれた。あと、お姉さんが生きてた間、どんな風にしてたのかも、言われた」
クローンの証明を身につけないようになったことでもわかるように、やっぱり偏見を持つ人は未だにいるのだ。こんなことを、わざわざ聞いてしまうほどに。
「その後、お父さん言ってたよ。娘は影に潜むように生きてきて、それが自分の役割だと信じ切っている。だが、もう日なたに出なければいけない時なんだって」
「日なた……?」
「俺も同じこと言われた。要するに、普通に仲良しの友達同士やるよりもずっと大変だけど、ヒトミが日なたに出られるように手伝ってやってほしいって……そう言ってた」
昨日、私に言ったことと同じだ。
それを、わざわざ連絡先を調べて、大事な友達三人にまで言ったんだ。
「なに、それ……」
胸の内に、また、ぐつぐつと熱い何かが煮えたぎってきた。だけど、それを留めるように、弓槻さんは私の手をきつく握った。
「私は……お父さんに、賛成」




