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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter4 つくりものの私たち
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11 はい、あーん

「……ないよ。そんなの」

「しかし……」

「ないよ。してほしかったことなんて、ない。だって……深海くんは、愛のものだったんだだから」

 そうだ。深海くんはいつだって、愛の方を見ていた。私の方を向くのは、愛のことを話す時だけ。何を今更、傷つくことがあるんだろう。

 自分で言っていて、気付いた。

 あの視線を、微笑みを、私のものにできたら、なんて……考えるだけ無駄だったんだ。たとえそれが、あの人のクローンによって再現されたものでも。

 一生、手に入らない。それで良かったはずなのに。

 自分の中にあった馬鹿な考えが、涙と一緒にこぼれ落ちていく。それを、真正面から伸びてきた手が、ハンカチで受け止めてくれた。

「……僕は、あなたの前にいない方がいいでしょうか?」

 悲しそうな顔で、ナオヤくんはそう言う。

 彼は何一つ悪くない。悲しむ必要なんてないのに。

 それに、今、差し伸べてくれているこの手は、とても温かい。ハンカチよりも心地よく、頬の上を滑っていく。

「……深海くんだったら、いない方が良かったと思う」

「じゃあ、僕は……」

「でも、ナオヤくんなら、いてほしい」

「僕ですか?」

 戸惑う声が聞こえる。私は、ただ頷いて、それに応えた。

 私が俯いたままだったからか、しばらくは、じっと固まったままだった。けれど、やがてそろそろと動き出した。

 そして、何か気配を感じて顔を上げると、目の前にはクリームとフルーツが載ったスプーンがあった。

「え……」

「は、はい……あーん」

 ぎこちなくそう言うナオヤくんの頬は、ちょっと赤かった。自分でやってみて、これがなかなか恥ずかしい行為だとようやく気付いたらしい。

 私が見返すと思わず目を逸らせてしまう。その顔が、いつもと違って年相応の男の子のものに見えた。

 それが、なんだかとても嬉しくて、可笑しかった。

「ふ、ふふふ……はははは!」

「何ですか?」

「ごめん。でも……ナオヤくんがそんなに赤くなってるの、初めて見た気がして」

「体のつくりは人間とほぼ同じなのですから、当然です」

「『ほぼ』って、なに? 同じでしょ」

「そう……ですね。それより、その……早く」

 そう言って、スプーンを押し出して、急かす。 

 私は、思いっきり大きな口を開けて、それを口に入れた。心地よく冷たくて、甘くて、酸っぱくて……ごくんと、飲み込んだ。美味しかった。

「うん……ありがとう」

 不思議だ。飲み込むと、さっきまで感じていた重苦しい何かまで、一緒にするっと飲み下してしまったみたいだ。もう、胸のつかえは感じない。

「じゃあ、お返しに……はい、あーん」

 今度は私が、クリームとフルーツ山盛りのスプーンをナオヤくんに差し出す。それを見たナオヤくんが、更に顔を真っ赤にして困惑していたことは、言うまでもない。


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