6 祝福
しれっと、ナオヤくんの方が答えた。もはや混乱している加地くんが私とナオヤくんを交互に見るばかりで何も言えなくなっている。弓槻さんだけが、しっかりと私の目を見て、真意を問おうとしているみたいだ。
「ヒトミちゃん、あんなこと言ってるけど、大丈夫? 嫌なら嫌って、ハッキリ言わないとダメだよ? ていうか、どっちにしろ今、ハッキリしといた方がいいと思うけど」
「嫌では……ないかな」
私の言葉を聞いたナオヤくんは、ぐっと前のめりになる。
「では、同意頂けるでしょうか?」
「う、う~ん……」
急かさないでほしいのだけど……そうはいかないみたいだ。唸っている私に、弓槻さんが静かに、語りかける。
「あのさ、ヒトミちゃん。『実験リスト』はあくまで楽しむためのものでしょ? それに振り回される必要なんて全然ない。楽しむリストのために、楽しくない嫌なことをするなんて、馬鹿げてるよ。落ち着いて、本当に嫌じゃないか、それをして楽しいとか嬉しいとか、そう思うかなって、考えてみて」
弓槻さんが、いつになく真剣な眼差しを向ける。私が無理矢理ナオヤくんに付き合わされるんじゃないかって心配してくれているんだろう。どうして、そんな心配までしてくれるのかはわからないけれど、その気持ちは、とても嬉しかった。
だから、考えてみる。
ナオヤくんと恋人関係になったら、これから一緒に居る時間が長くなる。それは、別に構わないと思う。
構わないけど、楽しいか?……そこで、ふと彼曰くの『渾身の冗談』を思い出して、笑いそうになる。いつもあんなことをするわけじゃないだろうけど、きっと、楽しいんじゃないかと思う。
じゃあ、もっと根本的な問題……彼を好きになるのか? こればっかりは過ごしてみないとわからない。だけど、彼の横顔を見ているとドキドキするのは、わかる。その理由も。
だって、彼の横顔は深海くんのものだから。私が見るのは、いつも横顔だった。私は愛じゃないから、彼の笑顔を真正面で受けることは、なかった。あの笑顔が自分に向いたらって思ったことが、ないわけじゃない。いや、何度もある。あるけど……そんなことは、起こるはずがなかった。彼のあの優しい視線が、真っ直ぐに私の瞳を見つめるなんて、一生ないと思っていた。
それなのに、今、彼の視線は私に向けられている。まっすぐに、私だけを、見てくれている。それだけで、胸の奥が熱くなって、鼓動が高鳴る。
彼曰くの『恋人関係』になったら、あの時諦めていたものが、ずっとずっと手に入るということなんだ。
そう、気付いた。だから我知らず、私は頷いていた。
「そっか……」
顔を真っ赤にして頷いた私に、弓槻さんは小さな声でそう言った。そして、私とナオヤくん、両方の手を取って、がっしりと組ませた。
「カップル誕生! おめでとう~!!」
「あ、ありがとう……」
「ありがとうございます……?」
ナオヤくんは、何を祝われているのかわからないようだった。彼にとっては単に契約が成立したというだけなんだろう。
そんなナオヤくんの背中を、加地くんがバシンと思い切り叩いた。
「やるじゃん、深海!」
「何がですか?」
その、目を丸くしている様子を見るに、『恋人関係』になっても私からの一方通行なのは、変わらないんだろうなって、心の中で少しだけため息をついた。
皆には気付かれないように幸せな顔を浮かべながら、だけど。




