17 提案
愛を大事に思って色々と手を尽くした末のことだった。だから、誰もお母さんを責めることなんてできなかった。だけどそれが、お母さんをより傷つけたのかもしれない。
お母さんは、誰にも責められないから、自分で自分を責めた。そして、そんな風に愛を産んだお母さんが、私を子どもとして愛せないのは、致し方ないとも思っている。
そう、言おうとしたつもりだったんだけど……失敗した。
加地くんも弓槻さんもナオヤくんも、身がよじれそうな面持ちでいた。そんな顔をさせたかったんじゃないのに。
こういう時、つくづく思う。愛なら、もっとうまく立ち回れたのにって。
体育祭で負けた時、頑張って準備した文化祭の出し物が不慮の事故で壊れた時、誰かが転校してお別れするとき……いつだって愛と深海くんが一緒になって皆の気持ちを明るくさせた。
ああ、私はやっぱり、どれだけやっても『愛』になることはできないんだな。
そう、唐突に思った。
その次の瞬間だった。私の体を誰かが包み込んだ。
「……弓槻さん?」
弓槻さんは答えなかった。その代わり、肩が震えていた。私に触れる指や、腕や、額や髪……すべてが小さく震えて、そして温かかった。
「あの、ごめん……何か悲しい気持ちにさせちゃった? ええと……」
「悲しいのは、天宮さんじゃない」
「え?」
「あんなの、ないよ……!」
肩に回した手に、ぎゅっと力が籠もる。
「俺も、そう思う」
向かいのソファに座っていた加地くんが、そう言った。ゆったり座っているようでいて、膝に置いた拳が強く硬く握りしめられている。
「あの人……ヒステリックだけどちゃんと心配はしてた。それが正気に戻ったらさ、こっちのこととかどうでもいい風で……まるで自分が被害にあったみたいな顔してさ……とるべき態度が違うんじゃねえのって、思った」
「……うん、そうだよね。あれは……違うよね」
皆がそう言う気持ちは、わかる。理解できる。そして、とてもありがたいと思う。
だけどお母さんの胸の内を知る私には、あの時のお母さんをすべて否定することはできないでいた。
私が曖昧な返事しかできないでいると、リビングはまた暗闇みたいな沈黙が下りた。
そんな中で、ひょこっと声がした。
「一つ、提案なのですが……」
なんだか、この声を聞くと安心するようになっている気がする。
もちろん、ナオヤくんの声だった。
「天宮さんは『実験』をやめては?」




