16 説明
それから一時間もしないうちに、ヘルパーさんがお母さんを迎えに来た。案の定、ちょっと目を離した隙に家から出ていたとのことだ。
同じように心配していたお父さんにも連絡して、そのままヘルパーさんがお母さんを連れ帰ることで、話はまとまった。
お母さんはその間、ずっと不安そうだった。どうして、ここにいるのかわからないのだから仕方ない。誘拐されたような怯えた様子だった。
理不尽に睨まれていたナオヤくんたちまでが、なんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
どうにかお母さんを送り出した後も、四人の間に流れる空気はどうしようもなく重苦しかった。
「あの……ごめんね。お母さんが、色々失礼なことを言って……」
私がそう言うと、皆、首を横に振ってくれた。だけどそれ以上は、上手く言えないようだった。
「えーと……もう、話しちゃうね。私って、クローンなんだ」
わざと軽い口調で言ってみたけど、空気を軽くするのには失敗した。私には、高等技術過ぎたみたいだ。
「オリジナルと姉妹ってことで育ったんだけど、二年前にオリジナル……『姉』の愛がね、病気で……ね。で、それ以来お母さんは私と愛の区別がつかなくなる時が出てきて、さっきみたいに完全に入れ替わって考えちゃう時があるんだ」
「……死んだのは、『ヒトミ』の方だと?」
ナオヤくんの声が、今はとても厳しく聞こえた。正しくて、鋭くて、皮膚だけ剥ぎ取られたみたいな奇妙な痛みが走る。
「二年前に、愛は急変してそのまま亡くなったんだけど、お母さんの中では『続き』ができててね……急変したその時、『ヒトミ』がドナーとして臓器提供して、愛は奇跡的に病気を克服するの。可哀想にヒトミは犠牲になったけれど、愛は信じられないくらい元気になった……ていう後日談がね、出来上がってるみたいで……すごく都合良くて、最初、ちょっと笑っちゃった……アハハ」
私はなんとか笑うのだけど、誰もそれに追従はしなかった。まぁ、逆の立場なら、私だって笑えるわけがない。
「たぶんね、クローンじゃなくても、そうだったんだよ。私は万が一の時に……代わりにできるように人工子宮で安全に生成したんだけど、愛のことは……自然出産で大事に寄り添って育てたって言ってた。お医者さんは止めたらしいんだよ。母体で胎児を育成するリスクとか色々言ったらしいんだけど、でも絶対やるって言い切ったんだって。お父さんも病院も、万全の体制で妊娠・出産に備えてたらしいんだけど、妊娠中もお母さんは忙しくて…ちょっとだいぶ、トラブルがあって……それで、お母さんは自分を責めてるんだよ。愛を丈夫に産んであげられなかったって。だから、丈夫に産まれた私を見てると辛くなっちゃうんだよ。仕方ないんだよ」




