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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter3 『愛』と『ヒトミ』
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15 空模様と

「何言ってるの?」

 お母さんは、胸元をぎゅっと握りしめた。困惑している時の癖だ。

 視線をうろうろと彷徨わせるお母さんを逃さないと言うように、ナオヤは一歩進み出た。その声には、聞いたことがない熱が籠もっていた。

「今目の前にいる彼女は、昔から体を鍛えていてとても健康で、優れた身体能力の持ち主です。風邪をひいたくらいでは死にません」

「何? あなたに何がわかるの?」

「彼女のことを理解したわけではないが、情報ならある。あなたの知らない情報を、数え切れないほど」

「ああ、やっぱり隠し事があったのね! そんなことがあれば、何かあった時に助けてあげられないじゃない! 愛、今すぐ帰りましょう。外なんか出なくたっていいから、安全に、静かに、過ごしましょう」

「お、お母さん……!」

 お母さんの手が、ナオヤくんを通り越して伸びてくる。見た目からは信じられないほどの腕力で私の腕を掴んで、絡みついて、離れない。

「あなたはね、生きて幸せにならなきゃいけないのよ。あの子のためにも!」

 そう叫ぶお母さんが、胸元からペンダントを引っ張り出した。今時珍しい、ロケットペンダントだ。

 開くと、そこには二枚の写真が入っている。片方は一人、もう片方は二人、人間が映っている。そのどちらも、私と同じ顔だ。つまり、愛と私の二人だ。

「あなたのために犠牲になってくれたヒトミのためにも、あなたは自分を大事にしなきゃいけないのよ!」

 お母さんの声が、エントランスを駆け抜けて、家中に響き渡る。

「ヒトミって……え?」

 想像していた通りの声が、聞こえた。

 加地くんと弓槻さんが、困惑の声を漏らしながら、私とお母さんを交互に見ている。あんなことを聞いてしまったら、そりゃあ、そんな顔をするだろうな。

 そんな他人事みたいなことを考えていた。他人事にしないと、息ができない気がした。

 だけど私よりも荒い呼吸を繰り返していたお母さんの声が、ふいに、ひゅっと詰まった。そしてすぐに、穏やかな呼吸に戻っていた。そして……

「……あら? ここは、どこ? ヒトミ、どうしてここにいるの?」

 さっきの荒ぶる声とは打って変わって、凪いだ海のような声で、お母さんは私を呼んだ。

『愛』ではなく、『ヒトミ』と。

「ヒトミ……いったい、何をしたの?」

 お母さんの目は、今日の空模様と同じくらい、一瞬で曇っていった。


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