14 母の錯乱
「あなた、元気になったじゃない? 絶対に行動範囲が広がると思って、メンテナンスの時にこっそりこのアプリをインストールしておくように頼んだの」
「どうして、そんな……」
「こういうことがあるからよ。予定をすぐに変更して、私の知らないところに行って……どこに行ったのかわからなくなったら、心配するでしょう」
「ここは……友達のお家だよ。何も心配なんてないよ」
「私はそんなの知らないもの。初めて見るお友達だし、男の子もいるし……」
そう行ったお母さんの目に、急に冷たい光が宿った。その視線はナオヤくんと加地くんに向けられていた。
「お母さん、やめて。急に雨が降ってきてびしょ濡れになったから、色々お世話になってたんだよ。むしろお礼を言わないと」
「だから……お母さんを呼んでくれたら良かったじゃない。こうしてる間にも風邪でもひいたら、またあなたは……」
お母さんは、涙ぐんで、俯いてしまった。こうなると、何も言えなくなってしまう。
愛を心配しているのは本当だから、困る。その気持ちを否定する気はまったくないのだけど、だから何をしてもいいとは限らない。
お母さんに真っ向からそう言えるのは、愛だけだった。私は当然、言えなかった。昔も、今も。
外の雨音と、お母さんのすすり泣く声が、重なって響く。
そんな中、別の声が、聞こえた。
「一つ、よろしいですか?」
ナオヤくんの声が、いつもよりもずっと、凜として響いた。
お母さんは怪訝な顔のまま、ナオヤくんに視線を向けた。上から下までじろじろ見てから、ようやく頷いて先を促した。
「あなたは愛さんを心配して、ここまで来られたということですね?」
「ええ、そうだけど」
「あなたが迎えに来られたのは、愛さん、ということですか?」
「それ以外、誰がいるの? 変な子ねぇ」
「なるほど」
そう言うと、静かに私とお母さんの間に立った。まるで、壁になってくれるように。
「では、お帰りください。ここには、あなたが連れ帰るべき人はいません」
「な!?」
お母さんも私も、加地くんや弓槻さんまでが、驚いた。皆の視線を一手に受けながら、ナオヤくんは続ける。
「それに愛さんを心配しての行動とはいえ、あなたの行いは違法ですよ。本人の同意なく位置測定を行うことも、彼女への態度も……」
そう言って、ナオヤくんは私を見た。つられてお母さんも、私を見る。だけどお母さんの方は、その意図がわからなかったみたいだ。
「母親が娘の心配をすることの何が違法なの? GPSはやり過ぎだったかもしれないけど、そうでもしないと何があるかわからないじゃない。それにこの子は、ずっと体が弱くて大人になれないとまで言われていたのよ。若さと勢いに任せて無茶したら、また……」
「それは、彼女ではありません」




