4 深海尚也?
わからなくて唸り声をあげて、そこで停止ボタンをタップした。
録画が止まると、急に周囲の時間が動き出す。もちろん、本当に止まっていたんじゃなくて、感覚としてシャットアウトしていたという話だけど。
さっきまで聞こえていなかった波の音が、急にザザーッと、耳に押し寄せてくる。
この海浜公園は、豊かな緑と広いヨットハーバーが隣り合う。少し視線を動かすと、ヨットの影がいくつも波間に揺れている。
波は穏やかだ。確か、明日は結構な大雨の予定だとニュースで言っていた。
交通だけじゃなく天候まで管制システムでコントロールされている昨今、突然の嵐に見舞われることも、想定以上の規模の台風や大雪、干ばつに大被害を被るといったこともない。
気象局から提供されるお天気情報をチェックして、私たちは日々予定を立てて行動する。
よって、大雨が降るとわかっている明日、この公園には人っ子一人いなくなるだろう。その分、今日訪れておく人もいるみたいだ。
日没間近でも、公園内にはちらほらと人影が見える。
どうしよう、困った。できることなら人に見られたくなかったけれど……仕方ない。
「もうすぐ日が落ちちゃうし、撮れるとしたら、あと一回かな」
日が落ちる前には帰らないといけない。両親に、心配をかけてしまうから。
少し慌てて、もう一度カメラを構える。画面には、私と茜空とそれに染まりきらない曖昧な色の海。すべてが曖昧な光景だ。
そこでふと思い立って、録画ボタンを押す。
「私は『天宮 愛』。十七歳です。好きな食べ物は……ミルフィーユ。趣味は……星を見ること。星座や星の名前をたくさん知っています。得意教科は、古文と地学と美術。体育は……苦手です。将来の夢は……」
そういえば、何だっただろう。
そう思うと、そこから先が言えなくなってしまった。沈黙ばかりが動画を埋めていくから、一旦、停止ボタンを押した。
録画した動画を最初から見直して、考えてみる。将来の夢は何だったっけ。何て、言っていたっけ。
だけどどれだけ頭を捻っても、思い出せない。
ため息と共に、さっきの動画を再生しようと画面を操作する。すると、声が聞こえた。
「天宮……どちらですか?」
ぎょっとした。さっきの自撮りを見られていたっていう焦りもあるけれど、聞こえてきたその声には覚えがあった。
声の主は、私よりほんの数メートルしか離れていない場所に立っていた。私と同じように、テラスの柵に寄りかかり、不思議そうな視線をこちらに向けている。
いつまでも答えない私に、まっすぐな声が、また届いた。
「あなたは先ほど自分を『天宮 ヒトミ』と名乗り、すぐに『天宮 愛』と変更しました。どちらがあなたの名前なんでしょうか?」
私が瞬きを繰り返す間も、その人はじっと、こちらを見つめている。視線で射貫かれる、とはこういうことをいうのかと、ぼんやり思った。
そして、この人はやっぱり、よく知っている人だとわかった。
「もしかして……『深海 尚也』くん?」




