8 深海家の別荘
ナオヤくんが『僕の家』と言ったのは、正確には別荘だった。
有名な別荘地で、普通の住宅地のお家よりも大きな別荘が並ぶ中、ひときわ大きな建物を前にして、ナオヤくん以外の三人は唖然としていた。
「なぁ……深海の親って……」
「ホテル・外食業を営んでいます。チェーン展開もいくつかしていたかと……」
「なるほど」
こともなげに言うナオヤくんを見て、弓槻さんがぽつりと呟く。
「深海くんがちょっと浮世離れしてる理由がわかったかも……」
その発想は少しズレているのだけど……まったくの見当違いでもない気がした。
茫然とみている私たちを置いて、ナオヤくんは認証を済ませてゲートを開けた。
「どうぞ。今日は誰もいないので、もてなしはできませんが……」
さらりとそう言う。私たちはおどおどしながら、門をくぐった。
普段は週に何度か人が来てハウスキーピングをしてくれているらしい。一年ほど来ていないと言っていたのに、家の中は掃除が行き届いてピカピカだった。
私たちをリビングに案内すると、ナオヤくんはどこかへ消えたかと思うと、すぐにタオルを持って戻って来た。
「どうぞ。あと、管理人に連絡を入れました。全員の着替えを持ってきてくれるそうです。ここにはそういった用意がないので」
「ありがとうな。その……家の人には、言ったのか?」
加地くんは、あのお母さんのことを想像したらしい。電話越しでも怒られると思ったのか、ビクビクしている。
だけど、予想に反してナオヤくんはサラッと答えた。
「もちろん。そのままゆっくりもてなすようにと言われました。管理人に連絡を入れてくれたのも母です」
「そ、そう……なんだ」
「はい。とりあえず、何か飲み物を入れてきます」
「私、手伝うよ」
私がタオルを置いてそう言うと、ナオヤくんは少し悩んだ末に、「お願いします」と言った。
ナオヤくんについてキッチンに入ると、それはそれは大きな冷蔵庫とパントリーが目に入った。一年以上来ていないというのに、中身はぎっしり詰まっている。きっと、いつ来てもいいようにとしっかり管理されているんだろう。
だけど棚を眺めて、そこで止まってしまった。
「コーヒーがいいんでしょうか。紅茶がいいんでしょうか。それとも緑茶? いやホットミルク……」
「聞いてくるよ」
「ではまず、コーヒーを淹れておきます」
そう言って棚からコーヒーとマシンを引っ張り出したのを見て、私はリビングに戻った。二人は、まだタオルで体をゴシゴシしていた。もの凄い雨量だったから、拭いても拭いても足りないんだろう。
加地くんなんてきていたシャツを脱いでしまっていた。それについてもの申す弓槻さんの声が聞こえてくる。
「ちょっと、レディーの前で半裸とかやめてよ」
「いいだろ別に。着てたら拭いたって意味ないんだし。ビーチにいたら、どのみちこうなってたんだしさ」
「それもそう……かな? なんか納得いかないけど」
気付けばケタケタ笑っている。なんだか仲良し……というか、雨に濡れた子犬同士がじゃれ合っているみたいだ。
だけど突然、弓槻さんの声音が変わった。なにかに気付いたように、はっと息を呑んでいる。
「加地やん……それ、どうしたの?」




