7 雨
四月某日。私たちは電車に乗って、片道一時間の場所にある海水浴場に来ていた。
昔の電車と比べて、エンジンも電力供給も、何よりも管制システムも格段に向上したらしく、大昔の電車より何十倍も速くなっていた。
おかげで私たちのような未成年の学生でも、一〇〇km離れた場所まで週末に、日帰りで気軽に遊びに来られるのだ。
それでも、こんなに遠出したのは初めてで、私はずっとドキドキしていたのだけど。
駅から歩いて数分ほどで、その風景は見えてきた。
透き通るような青と、抜けるような白が交差している。その頭上には、雲一つなく澄んだ碧。加地くんが天気情報と予約状況を確認して、最高の日取りと場所を選んでくれたらしい。
知らなかった。これも、海なんだ。
「いつも見てる海とはだいぶ違うだろ?」
この海水浴場を予約してくれた加地くんが、自慢げに言う。
正確には、海はすぐ近くにある。だけどいつも行くあの海浜公園には砂浜はなくて、ヨットハーバーになっている。船の漕ぎ出す光景はたくさん見てきたけれど、こんなにも広々とした海辺は初めて見た。
隣を見ると、同じ事を思ったらしい人が、もう一人。
「深海くんも、感動してる?」
からかうように弓槻さんが言うと、ナオヤくんは素直に頷いていた。
「前に家族で来たことあってさ。絶対にまた来たいって思ってたんだ」
「うんうん。ここ、人気のビーチだよね。加地やん、よく予約とれたね」
「な? 週末なのに珍しく空いててさ。絶対行くしかないって思ってさ」
砂浜へ向かうゲートには、各家庭と同じようにセンサーがついていた。加地くんはそこにIDを掲げている。すると番号が表示された。私たちが予約したビーチの区画番号だ。
「すご……きっちり区画管理されてるじゃん。学生でもプライベートビーチで遊べるって贅沢~」
「だろ? 四人で割り勘すれば、こういう楽しみ方ができるってわけよ」
加地くんが得意げに言う。きっと、すごくたくさん調べてくれたんだろう。本当に面倒見のいい人だ……。
「ビーチ内の天気も完全管理されてるからな。バッチリ晴れの日選んどいたぜ」
……と、言った加地くんの鼻先に、ポツンと何かが降ってきた。
「へ?」
四人揃って、思わず天を仰ぐ。すると、私たちの疑問に答える代わりに、急激にその何かが怒濤のように降ってきた。もちろん、雨粒だ。
「うわ⁉ な、なんで⁉」
もはや雨粒どころじゃない。豪雨が、まるで滝壺に落とすように私たちを濡らしていく。
慌てふためく中、冷静な声が響いた。
「とにかくミニコテージまで行きましょう」
考えるより先に頷き、私たちは走った。
どうにかお役していたビーチのミニコテージにたどり着く。だけど時既に遅し。私たちはものの数秒でずぶ濡れになってしまっていた。
茫然とするしか、ない。
「加地やん……これはいったい……?」
弓槻さんが怪訝な顔を加地くんに向ける。加地くんはその視線から必死に逃れながら、必死に公開されているこのビーチの天候情報を見ていた。
「あ、午前中は快晴だけど、昼から雨だった。夜までずっと」
どうりで、週末だっていうのに空いていたわけだ。
「えーと……ごめん」
加地くんは、深々と頭を下げる。そんな潔い態度をとられると、怒れない。私たちだって、加地くんに任せきりで確認していなかったんだし。
とはいえ、困っていた。
「どうしよ。服乾かさないとだよね。乾燥機は……ないかぁ」
利用マニュアルを見てみた弓槻さんがため息をつく。
とはいえ、科学技術が進歩しても、濡れた服を着たままだと人間が風邪を引くのは変わらない。
どうしようかと頭を抱えていると……そろっと、ナオヤくんが手を挙げた。
「では、僕の家に行きませんか」




