17 制止
「これが世界一甘いお菓子ですか。確かに、食べたことのない甘みですね」
そう言って、ナオヤくん一人で四個目をつついていた。私たち三人は、一つ目をどうにかして飲み下そうと努力している最中だっていうのに……。そのことに、残り一つでようやく気付いたようだ。
「あ、すみません。一人で全部食べてしまうところでした」
「いいよ、もう……全部食っちまえ」
「いいんですか?」
今更ながら、同席者にものすごく気を遣っている。だけど私たちも、ナオヤくんがこのお菓子をものすごくお気に召したらしいとわかったこの状況で、彼から残り一つを奪う気にはなれない。というか、そんな気も起こらない。
三人揃って「どうぞどうぞ」と勧めると、ナオヤくんはおずおずと最後の一個に楊枝を伸ばした。大皿に溜まったシロップにこれでもかというくらい絡めてすくいとる。甘い香りが、皿からナオヤくんの口元までふんわりと軌跡を描いていく。
ナオヤくんの口が、待ち遠そうに小さなお菓子を受け入れようと開いていた。最後の一口、という時――その手は止まった。
「ナオヤ」
そう、彼を呼ぶ声がしたから。
ナオヤくんを呼んだのは、四十代くらいの綺麗な女性だった。ぴったりとしたスーツに身を包んで、凜とした空気を纏っている。見ているだけで、こっちまで背筋がぴんと伸びそうな、そんな人だった。
その女性が、つかつかと私たちのテーブルまで歩いてきた。そして、最後の一口を放り込もうとしていたナオヤくんの手を、しっかりと掴んだ。
「何をしているの」
「母さん、これは……」
「何をしているのかと聞いてるの」
半端な言い訳なんて、聞いてくれそうになかった。
いつもすらすらと喋るナオヤくんが、俯いて、黙り込んでしまった。
こんなにも、打ちひしがれたようなナオヤくんの顔は、初めて見た。だからだろうか、気付けば立ち上がっていた。
「あ、あの……私が誘ったんです。そんな、あの……責めないであげてください」
「あなたはどなた?」
いきなり割って入った私を、ナオヤくんのお母さんは怪訝な目で見た。思わず竦んでしまったけれど、なんとか目だけは逸らさずにいた。すると、何かに気付いたようだった。
「あなた……昔、同じ学校だった子?」
「! はい、そうです。小学校の頃ですけど。何回か、お家にもお邪魔しました!」
「家にも……」
ナオヤくんのお母さんにも、会ったことがある。あの頃は厳しいという印象はあったけれど、怖くはなかった。
私は遊びに行ったと言うより、愛の付き添いだったから話してもいないし、印象にも残らないだろうけど。でも愛の顔を覚えていれば、私の顔にも見覚えがあると思うだろう。
私を見る目が、針のように鋭く細く、迫ってくる。
「確か……『天宮 愛』さん……」




