16 グラブジャムン
あと残るは……ケーキの皿たちの中央に鎮座していたもの……そう、グラブジャムンだ。
そこには四人分の楊枝が刺さっていて、いつでも手を伸ばしていい状態になっている。だけど、誰も手を伸ばそうとしない。いざとなって、怖じ気づいているらしい。私もだけど。
「ここは、レディーファーストで」
加地くんが、しれっと私たちに皿を差し出した。
「加地やん、それはズルいでしょ」
呆れたように言う弓槻さんに同調して、私もぶんぶん首を縦に振った。
「いや弓槻がノリノリで食べたそうだったし。甘いものは女の子の方が好きなこと多いだろ」
「尚也……僕は、甘いものも好んで食べていたようですが……」
ナオヤくんが加地くんに言ったことで、加地くんは劣勢になったのだった。
そういえば深海くんはよくアイスとかシュークリームとかの甘いお菓子を食べていた気がする。そうだ、だから愛がよくお菓子を作っていた。私も、よくそれに付き合わされたんだった。
「あの、譲り合いをしていても埒が明きません。今日は実験のために来たので、四人同時に食べるのが最適かと思いますが、どうですか?」
加地くんも弓槻さんも、そして私も、その一言に否を唱えられるはずもない。三人で目を見合わせて、三人同時に小さく頷いた。
そしてそれぞれが楊枝にグラブジャムンを一つずつ刺して、持ち上げる。さっきまで浸かっていたシロップがしたたり落ちそうになる。
小皿で受けたりしながら、互いに視線を交わし、ナオヤくんの合図を待った。
「では、いきます……三、二、一、〇」
カウントがゼロになると同時に、私たちは、世界一甘いボールをぱくんと口に放り込んだ。
「……むぐ!?」
甘さが、口いっぱいに広がって、混乱する。加地くんも弓槻さんも、動揺して言葉をなくしている。
口の中は、とにかく甘みに支配されていた。
とんでもなく甘く作ったドーナツを、これ以上ないくらい甘く作ったシロップにつけ込んで、包み込んで、浸透させたもの。それが圧倒的甘さの正体……らしい。
正確に言うと、甘みを作り出す調味料は当時と同じものは手に入らず、今では化学調味料がほとんど。砂糖より甘い砂糖が主流……と言った方がいいだろうか。
まぁ、つまりは……同じ材料で作っていても、昔より格段に、劇的に、ものすごく、甘みが増している。
人類が、その限界に挑んだ甘さに耐えられるほど進化したかと言うと……現状の通り。
四人中三人が悶え苦しむという結果に終わっている。
「な、何コレ……甘いなんてもんじゃないんだけど」
「水飲んだら、飲んだだけ砂糖水に変わってく感じがする」
「つ……疲れてる時なら、なんとか……いや無理」
口々に感想を言う。心なしか、加地くんも弓槻さんも私も、顔色が悪くなっていた。甘いもので青ざめることがあるなんて、知らなかった。
そんな中、顔色が一切変わっていない人がいた。言わずもがな、ナオヤくんだ。




