11 『青春の実験』
「え?」
「『青春の実験』? 何それ?」
虚を突かれた顔をしているナオヤくんに、私は頷いて伝えた。ここは任せろ、と。
「えーとね……そう。高校を卒業したら大学でしょ。専門的なことを勉強するのに、私たち、まだどんなことをやりたいとか興味があるとか、わからなくて……だから、今のうちに色々試そうって話になったの」
「つまり『自分探し』とか『個性の確立』をやりたいんだな。いいじゃん、それ。応援する」
「ありがとう!」
加地くんは豪快に笑って、手を差し出した。それが握手を求めているんだと気付くのに、少し時間がかかった。
手を握り返すと、逞しい笑みが降ってくるようだった。
「ほい。深海も」
「……はい」
ナオヤくんは握手を求められて、握っていたレンゲを一旦置いて、それに応じた。
首を傾げて、何度も握手した手を見ている。また、尚也くんの記憶を検索しているんだろうか。彼だったら、どう反応したのか。
だけど加地くんはそういった事情を知らない。ただぼんやりしている人だと思ったらしい。肩を組んで、親密そうに語っている。
「今日あんま話できなくて残念だったよ。お前、なんか面白い奴だな」
「……どうも」
そう言われると、悪い気はしていないようだった。どちらかと言うと、尚也くんが誰かにそう言う側だったから、おかしな気がしているのかもしれない。
「だけどさ、さっき血圧測定してたのって天宮さんだけじゃん? 未測定の人はちょっと……あと持病のある人とかも、ご遠慮願いますよ」
「……そうですか。では、諦めた方がよさそうですね」
ナオヤくんは握りかけたレンゲを、すとんとテーブルに置いた。こころなしか、ものすごくしょんぼりしている。味見を止めたこっちが申し訳なくなるくらいに。
「あ、あ~……わかった。ちょっとだけ! ほんのちょび~っとだけなら、大丈夫……だと思う」
「『ほんのちょび~っと』とは、どれくらいですか?」
加地くんが二本の指で『ほんのちょび~っと』を作っていたけれど、もっと具体的に言って欲しいらしい。
最終的に加地くんがレンゲを動かして、先っちょに本当にちょび~っとだけ、ちょこんと載せた。つまみ食いよりも少ないくらいの量を。
「これくらいなら、健康に害はありませんか?」
「いや、まぁ人によるけど……たぶん」
「わかりました」
ナオヤくんは頷くなり、加地くんからレンゲを受け取り、ぱくっと口に放り込む。一切の迷いなく。
「っ!」
反射的に口を覆うナオヤくんに、私も加地くんも思わず駆け寄った。
「大丈夫か? 無理すんな」
「あの……飲み込めないなら、ここに吐き出して。見えないようにするから」
そう、口々に言ったのだけど、次の瞬間にナオヤくんから聞こえてきたのは……
「美味しい……!」
「へ?」




