10 実験の定義
「ど、どうも……えっと……加地くんだよね?」
加地 芳樹くん……去年も同じクラスだった男の子だ。去年はクラス委員も引き受けていて、活発な人という印象が強い。一度、落とし物を拾ってくれてお礼を言ったきり会話はないけれど、変わらず朗らかに成してくれる。
今も、名前を呼ぶとニカッと快活な笑みを浮かべる。
「良かった。ちゃんと覚えててくれたか。天宮さん、あんまり人と話さないから、名前も覚えられてないかもって思ってた」
「そ、そんなわけないよ。ちょっと事情があって……それより、このお店が加地くんのお家?」
「そ! うちの看板メニュー頼んでくれてありがとな。でも、辛すぎたら無理しなくていいから」
爽やかな笑顔につい甘えてしまって、そっと、レンゲを置いた。完食はするつもりだけど、ちょっと休憩。これは、長期戦で臨まないと倒せないと判断した。
「なんか甘いもんと交互に食べたら? サービスするわ」
「い、いいよ。頼んどいて食べられないのなんて、こっちが失礼なんだから」
「いやまぁ、残されるのは悲しいけど、俺らだって病人出したいわけじゃないし。深海だっけ? お前もそう思うだろ?」
そう言って、加地くんはナオヤくんの方を向いた。すると、何故だかぎょっとしていた。
私も、ナオヤくんを見て驚いた。私が置いたレンゲをとって、激辛料理をすくいとろうとしていた。
「ち、ちょっと待って。食べられないんじゃなかったの?」
「和らげれば大丈夫かと……それに、あなたにばかり負担をかけては申し訳ない」
「私は自分から言い出したんだってば」
「あのリストは、二人で埋めていくと話し合ったので」
「リストって?」
加地くんが尋ねるので、ナオヤくんはあのリストを開いて見せた。上から下までじーっと見ると、加地くんは瞬きを繰り返していた。
「何だこれ。こんなの実験になるのか?」
「僕にとっては、十分試す価値があります」
「えー……俺だったらこれ、一日あったら全部できそう」
「全部できたのなら、新しい項目を追加すればいいんです。実験はいくつも繰り返して、検証していくものですから。検証の材料はいくらあったって、いいんです」
加地くんは今度こそ、ぽかんとしていた。私も同じ気分だ。
その強固な意志は、この無表情な顔のいったいどこから湧いてくるんだろう。
「はぁ……まぁよくわかんねえけど、頑張れな。ところで実験て何のための実験なんだ?」 しまった、と思った。
『私たちがよりオリジナルに近づくための実験』だなんて、言えない。私はともかく、ナオヤくんはクローンとして登録されていない上に、オリジナルとしてここにいるんだから。
実験のことを話したら、違法な存在だってことまで知られてしまうかもしれない。
案の定、ナオヤくんは固まっている。うまい言い訳を考えているのだろうけど、深海くんならどう切り抜けたのかといった記憶を検索して、見つからないんだろう。
彼曰くの『脳の処理』が追いついていないんだ。
私が、何か言わないと……!
「せ、青春の実験だよ」




