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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter1 再会、もしくは出会い
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2 夕暮れの『ナンバーズ』

 声が聞こえる。窓の向こう、グラウンドから聞こえる声。サークル活動中かな。

 ふと窓の外を見ると、はらりと花びらが舞っている。桜だ。

 グラウンドで新入生も交えて走り回っている人たちを祝福しているかのようだ。

 窓ガラスで閉ざされた場所にいる私には、そんな祝福は届かない。新学期早々、夢を持つことができずにこうして呼び出しをくらった私に、そんなものがもらえるはずもないけど。

 それにしても、元気で、逞しくて、楽しそうな声だ。みんな一緒に、一つの目標に向かって努力して、強くなって、思い出を共有する。

 なりたい大人になる過程での、儚くも力強い一瞬の輝き。

 それを、羨ましいと思ってしまう。だって私は、その輪の中にいないから。

「……さん。天宮あまみやヒトミさん! 聞いてるの⁉」

 大きな声に、急に我に返る。見ると、デスクを挟んだ正面に担任の先生が座っている。何度か私を呼んだようで、少し苛立っているように見える。もっとも、苛立っている理由はそれだけではないようだけど。

「まったく……どうなってるの? あなたはいつまでもあの課題だけ提出しないし、ご両親はいつも面談に応じてくれないし……」

 ため息交じりに先生は言う。

 今は西日がさしかかろうという時刻。それよりずっと前、まだ日が高かった頃から、先生は学校のカンファレンスルームで、こうして私と二人、向かい合っていた。一時間以上、ずっと。

 しかも私と先生の間には端末が一台設置されている。親がリモートで面談する予定になっていたのだ。

 だけど、約束の時間になっても、画面は真っ暗のまま『No Signal』と表示し続けていた。

「リモートでなら時間をとれるって仰るから、こうして待ってるのに……ねぇ?」

 同意を求められて、私は曖昧に笑った。正直なところ、こうなるんじゃないかと思っていた。あの両親だもの。

 そう思っていたら、先生の腕についたリスト端末が通知を知らせた。

「あ、ご両親からメールが来てたみたい。えぇと……『急な予定が入り、窺うことが難しくなりました。申し訳ありません』って……」

 先生が、チラリと私を窺い見る。私のリスト端末は、何も反応が無い。先生にだけ、送られたということだろう。

「えぇと……お父様はお忙しいのね。お母さまは?」

「母は……朝、体調が優れないと言っていました」

「そ、そう……なら仕方ないわね。次の日程を……」

「あの」

 先生が、目の前でメールの返信をしようとする。その動きを止めるように、私は大きな声を出した。普段は滅多に出さない大声だ。

「……私があの課題を出せば、いいんですよね? すみません、出しますから」

「じゃあ、週明けには必ず。お願いね」

「はい。今日は、失礼しました」

 両親の分も頭を下げて、バッグをつかんで、部屋を後にした。

 廊下を進んで、カンファレンスルームから見えなくなるほど離れて、ようやく立ち止まる。ふぅ、と一息つくと、思わずしゃがみこんでしまった。

「そっか……今日は”ヒトミの日”か」

 誰にともなく、そう呟く。珍しいことではないけれど、今日に限っては別だったかもしれない。

「……いや、”愛の日”だったらもっと複雑なことになってたかも」

 これでいいのだ、と言い聞かせて、さっさと帰ることにした。その時――元来た方向から声が聞こえてきた。

「天宮さんのご両親、またすっぽかしたの?」

「そうなの。もう何回目よ……」

 担任の先生と、もう一人も先生のようだ。思わず階段の影に隠れてしまった。幸い、先生たちは気付いていない。

「大手玩具メーカーの社長さんでしょ? 忙しいのも無理ないよ。しかも入学時にかなりの額の寄付をしてくれたらしいよ。だから手厚くしろって言われてるじゃない」

「手厚くしてるつもりなんだけどなぁ、こっちは。向こうが応じないんじゃ、どうしようもないじゃない」

「ご両親ともに会社の経営者なんだっけ?」

「いや、今はお父さんだけ。お母さんはお家にいるし……確かお務めはなさってないはずなんだけど……まぁ事情があるんでしょうね」

 担任の先生は、いつも良くしてくれる。こうして時間をとってくれたのに、本当に申し訳ない。こんな不満を抱えさせたことも含めて。

「にしても。あのご両親、あの子に冷たくない? いくら何でも放任主義すぎるっていうか……」

「え、知らないの?」

 ドキンと、大きく脈打った。このままだと、聞きたくない言葉を聞いてしまうかもしれない。逃げることはできないから、耳を塞ごうかと思った、その時――

「あの子……『ナンバーズ』よ」

「え……?」

 顔を見なくてもわかる。いつも親切にしてくれる担任の先生が驚き、眉をひそめている様が。

「ナンバーズ……どうりで」

 声音が、急速に暗く冷たくなった。そして、二人の会話は終わった。

 足音が遠ざかるのを待って、二人の去った方向を見る。もう、その背中は見えない。それでも、聞こえないように小さな声で、ぽつりと呟く。

「『ナンバーズ』じゃ、ありません。『クローン』です」


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