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君はプロトタイプ  作者: 真鳥カノ
chapter2 『実験』の始まり
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5 契約成立

 気にするところ、そこ? 思わずそれまで思っていたことを全部忘れて、ぽかんとしてしまった。

「……というか、この前の約束って、まだ有効だったんだ……」

「破棄した覚えはありませんが?」

「それを言うなら、契約した覚えもないけど」

「いわゆる口約束も立派な契約成立に値するものです。よって……」

「わ、わかった。あの時の約束は、全然現役で有効ってことね」 

 尚也の記憶だとか他人への配慮とか感情表現とかはまだまだなのに、こういう知識は豊富らしい。言いたくないけれど、『ラーニング』というのは方向性を間違っていたんじゃないのか?

 なんだか色々と、諦めた方が良さそうだ。

 この人は、思っていたような怪しい人じゃないらしい。奇妙ではあるけれど。

 真面目で誠実で不器用なほどに真っ直ぐで、そして深海くんとは少し違う優しさを持った人だ。

 まったく表に出せないけれど、『尚也』になろうと足掻いている。

(私と、同じ……でも、もっと深刻なのかも)

 私は箸袋から、お箸をもう一膳取り出して、ナオヤに差し出した。カフェテリアにあった共用のお箸を拝借しておいた。

「はい。じゃあ、改めて契約成立ということで、ご飯食べようか」

「どうも」

 二人揃って手を合わせて、小さめのお弁当箱に箸を伸ばす。

「美味しいですね」

「うん。お母さん、料理上手なんだ」

 もっと早く、食べたかった。そうしたら、愛と一緒に笑い合えたのに。

「何故、泣いているんですか……あ、すみません」

 ナオヤがそう言って、初めて自分が泣いているって気付いた。ナオヤはというと、また考えなしに口走ってしまったと思ったらしい。口をつぐんで、おずおずとハンカチを差し出した。

「……ありがと」

 そう言うと、ナオヤはまた別のおかずに箸を伸ばした。美味しいと、繰り返していた。

 同じテーブルを囲んで、同じ料理を美味しいと言えることが、こんなにも嬉しいなんて、知らなかった。

 だからだろうか。お弁当はあっという間になくなった。お弁当箱が小さかったから、というだけが理由じゃないと思う。

 楽しいと、こんなにもすぐに終わってしまうものなのかと、初めて知った。


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