4 マイクロチップ
「え、うん……たぶん私も」
たぶん、と言ったのは、記憶にないからだ。ほとんどの人が産まれてすぐに埋め込むものだから。
「アレのことだよね……記憶保存や運動能力の補助のための?」
「はい。僕の場合は特に、演算処理にも役立っています。ですが通常、チップは一つです。それが脳にかかる負荷の限界と言われています。それが僕には、二つ埋め込まれています」
「え!?」
「片方は、尚也のものです。いわゆる一般常識の知識と、尚也の記憶……両方を一年でラーニングするのは不可能に近かった。そこで尚也の記憶については、僕のチップから、彼の脳から取り出したチップにアクセスするという方法になったのです」
「……え? 何ソレ? そんなこと、できるの?」
「今のところ、僕の脳内では実施できています」
思わず、ナオヤの顔をジロジロ見てしまった。正確には頭頂部だけど。そしていくら見たって、何もわかるわけないのだけれど。
「複雑ですみません。例えるなら……今、あなたが見ているデスクのモニターに映るもの。それがあなたの脳内の記憶です」
「う、うん」
「僕のモニターには、僕の記憶だけじゃなく、尚也の記憶も映さなければいけません。だけど僕の記憶容量にすべての記憶を移行することは無理でした。そこで……もう一つのデスクと常に連結させて、そちらからも記憶を呼び出せるように設定した……ということです」
つまり二台分のデスクを操作しているということだろうか。それは、かなり相当、大変そうだ。
「そして僕のデスクにおいて最も優先されるべきは尚也の記憶の再現です。そのため、何か脳内処理が発生する度、僕のデスクは連結している尚也の記憶に先にアクセスする。そのため、処理が煩雑になり、咄嗟の反応が疎かになることがあります。先ほどのように、相手の気持ちを配慮するといった処理ができなくなったり……」
「さっきは、愛と深海くんの記憶を検索しながらだったから、無神経になっちゃったってこと?」
「そうです。重ね重ね、申し訳ない。それにあと、もう一つ……」
「何?」
「さっき言った通り、最優先事項は尚也の記憶を検索し、再現することです。自身の処理と尚也に関する処理を同時に行えば、脳にかかる負担は計り知れません。そこで、僕は自身の感情処理を後回しにするように設定されています」
「それって……?」
「通常の人間より、感情表現に乏しいということになります。表情豊かだった尚也を再現するために表情が乏しくなる……なんとも支離滅裂な話ですが」
そう、何でもない表情で、さらりと言う。
それを聞いた私の方が、眉間にしわが寄って、口元が引きつって、更にはそのまま硬直して、とても見せられない表情になってしまった。
尚也を再現するために、自分自身の感情を抑えられている。そう彼は言った。
そんなことが可能なのか? 可能だとして、常識的に考えて、実行するのか?
頭の中で、そんな口にできない思いがもやのように浮かんで膨れ上がって広がっていく。
私を混乱させたと思ったのか、ナオヤはまた、謝った。
「つまり……僕は昨日、協力しようと提案しましたが、非常に退屈な時間を過ごさせてしまうかも知れない。それを申し訳なく思います」
「……え?」




