3 お弁当
「これは……果敢に挑むべきか。それとも今日は戦略的撤退とするか。いや、それならば昼食を入手できない。午後からのカロリーが……」
「お弁当、あげようか?」
「そんな……それだとあなたのカロリーが……」
「いいよ。今あんまり食欲ないから。誰かが食べてくれるとありがたいかな」
私は持っていたお弁当の包みを差し出した。
改めてまじまじと見るナオヤくんは、目を丸くしていた。
「あの……箱に『AI』と記載されています。愛さんのものを流用なさっているのですか?」
「……これは愛の分なんだって」
母は、私(=ヒトミ)を愛だと思い込む時がある。そんな時は、私の存在はなかったことになるのだ。
母にとっては、愛とヒトミは二人で一人……いや、どちらか一人だけ、なのだ。
「今日は『愛の日』だから作ってくれたってこと。ね? ありがたく食べないと、でしょ?」
「……ではやはり頂くわけにはいきません。せめて、あなたも食べなければ」
そう言うと、ナオヤくんは私の手からするりとお弁当箱を奪って、またスタスタ歩き出した。だけど数歩で立ち止まって、くるりと振り返る。
「どこなら、静かに食べられますか?」
私の渇いた笑いを置き去りにして、ナオヤくんは進もうとする。
その歩幅に着いていくので、今は必死だった。
リクエストは静かに話ができる場所とのことだった。真っ昼間の学校で無理を言ってくれる。とりあえずカフェテリアから少し離れた適当な空き教室に入ることにした。
電源の入っていない旧式のデスクが並んでいた中、なんとなく、一番奥のデスクに座った。少しでも、話し声を聞かれないように。
ナオヤくんは到着するなり、いそいそと包みを開いてお弁当を広げていく。それほど大きくはないけれど、私とナオヤくんの間にお弁当をセッティングすると、いきなり頭を下げた。
「先ほどは、申し訳ありませんでした」
「へ!?」
思わずお箸を取る手が止まってしまった。色々と、タイミングの読めない人だ。
「あの……さっきの発言?」
「はい。あまりにも軽率な発言でした。お詫びします」
深々と頭を下げる姿を見ると、それ以上何も言えない。思わず尚也くんと重ねて見てしまうこともあって、尚也くんならそんなこと言わなかっただろうなって、思ってしまった。
同時に、ものすごく慎重に言葉を選んでいる風のナオヤがぽんとあんなことを口にしてしまったのも、なんとなく驚いた。
「もういいよ。でも、さっき言ってた事情って何? 説明してもらっても、いいの?」
ナオヤはこくんと頷くと、静かに、自分の頭を指さした。
「僕の脳には、マイクロチップが埋め込まれています」




