1 転校生
「はじめまして。転校生の『深海尚也』です。どうぞよろしくお願いします」
先日会った奇妙な人が、新学期、また目の前に現れた。本当に、変な人だった。
昔の知り合いなのかと思ったら、そのクローンで。しかもおそらくは違法な形で生成されたクローンで。いきなり身の上話をして、しっかりと巻き込まれてしまって……。
挙げ句、私と共にオリジナルを再現できるように協力しようと言ってきた、変な人だ。
あの時は頷きながらも曖昧に返事をして、なんとか連絡先を交換する前にその場を去った。それで、終わりにできると思ったのに。
越してきたと言っていたけど、まさか転入先が同じ高校だったなんて。しかも同じクラスだなんて……。
しかも、絶対に私がいるとバレている。私が彼を見て驚くのと同時に、目を見開いていた。表情は柔らかく微笑んだままだったけれど、それからもずっと、チラチラ私の方を見てくる。
他の女子たちは涼やかで整った面立ちの転校生を見て、密かに歓声を上げていた。そんな中で、私だけがそろっと顔を背けていたのだった。
だけど、時既に遅しで……
「こんにちは、天宮さん」
深海くんは……いや、ナオヤくんは迷わず私の元までやって来た。衆人環視の中、こんなにも至近距離で笑顔を向けられては、無視できるはずがない。
「……どうも」
答えると、ナオヤは満足そうに頷いた。
「なんだ。深海と天宮は知り合いか?」
「はい。以前、同じ学校でした」
「なんだ、そうか。じゃあ、席は一つズレてやってくれるか。知り合いが近くにいた方がいいだろう」
「ありがとうございます」
先生の言葉に従って、隣にいた女子はさっと席を空けて、別の席へと移っていった。
「端末の設定方法を教えてくれますか」
転校初日にやらなきゃいけないことだ。仕方ない。ナオヤの席に近づいて、横からモニターを操作する。
「ここにID入力して。そしたら前の学校でのデータも連結して、開けるはずだから」
「ありがとうございます。すみません、前の学校で使用していた端末よりも新しいものだから、わかりづらくて……」
「……いいよ、これくらい」
『前の学校』での記憶は深海くんのもの。おそらくナオヤくんは実体験は初めてのはずだ。
話しながらも、ナオヤくんは管理画面を起動させていた。だけどその後の操作は少したどたどしかった。
先日の話によれば、彼は生を受けて一年ほどらしい。ラーニングを受けたとは言っていたけれど、分からないことがあったっておかしくない。一つ画面を開く度、驚いたり感心したりしていた。
「ああ、これが学校の地図ですね」
「次の授業の教科書はどれですか?」
「なるほど。課題提出はこのタブから、これを選択して……」
仏心を出した結果、マニュアルに書いていることとほぼ同じことを、全部解説する羽目になってしまった。
ようやく終わる頃には、ホームルームは終わって、一限目の先生が教室に入ってきていた。
慌てて自分の席に戻ったところで、自分の端末でポロンと音がした。メッセージの着信だ。授業の記録以外に、生徒同士、教師からの連絡などのためのメッセージ機能もついている。
他の人が着信した気配はないので、私一人に対してらしい。何かと思って、開いてみると……
『昼休みもご一緒願います』
そう、書かれていた。
瞬きして、そろっと隣に目をやる。そこにはニコッと爽やかに微笑む奇妙な人が……。
わかっていた。彼が教室に入ってきたその時から、わかっていたんだ。
きっとこれから、逃げられないんだと。
(ていうか……使いこなしてるじゃない……!)




