10 プロトタイプ
「……え?」
「『愛』本人は既にいません。そこで『愛』という人間を完成体と考えて、あなたはそれに近づこうとしている。つまりあなたは、まだ試作段階のプロトタイプということではないですか?」
言っていることが、わからない。というよりも、理解したくないと脳が言っている気がする。
「……そういう、いきなり突拍子もないこと言い出すところは尚也くんと同じだね」
「そうですか?」
そうだよ、と心の中で返す。尚也くんも、いきなり何か思いついては皆を振り回していた。だけど、不思議と嫌じゃなかった。彼の案に乗った皆は、誰一人として嫌な顔をしていなかったのを覚えている。もちろん愛も、私も。
「そうか……そうなんですね。尚也が発起人となって集団で行動した記憶はいくつかありましたが、やはり自分では突拍子もないことを言ったという自覚がないようですね。そう思われていたとは……自覚がないとはいえ、振り回して申し訳ありませんでした」
「いえいえ、ナオヤくんが謝る事じゃ……」
そう言いかけて、迷った。そう言ってしまっていいのか、否か。
だってそう言ってしまうと、尚也くんとナオヤを切り離すことになる。それそのものは正しいのだけど、ナオヤの意識としてはどうなんだろう。
「そうですね。僕もまだまだプロトタイプのようだ」
「……え??」
「やはり一年足らずではラーニングは不十分ですね。もっとインプットし、照合していかなければ」
傷つけたわけではなさそう。だけど……思っていた反応とは、何か違う。そして妙に前向きだ。
「提案なのですが、協力していきませんか?」
「な、何を?」
「このリストを実行していくんです」
「なんで?」
「これは愛さんがやり残した、やりたかったことです。愛さんのプロトタイプとであるヒトミさんが実行すれば愛さんに近づける。そうは思いませんか?」
無表情なのに、今日一番というくらい、キラキラした瞳でそう言われた。それはますます以て、昔の記憶と重なってしまって、目を逸らせなくなってしまう。
正直、この目から逃げたい。だって、このまま見つめられたら……
「わ……わかった……」
ああ、言ってしまった。
本当は、そんなこと思っていないのに。放っておいてほしいのに。『愛』を目指すのに、この人の手を借りたくなんてないのに。
だけど深海くんと同じ柔らかな笑顔で、右手を差し出す姿を見て、諦めた。
敵いそうにない。
私は、ため息はなんとか飲み込んで、差し出された手をそろりと、握り返した。




