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鬼の王様が私を逃がしてくれません  作者: あいすらん
2章

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15/15

負けず嫌い

 保健室でしばらく時間を潰した後、私は華麗に復活した。

 五時限目は体育である。5月の体力測定に向けて50メートル走の練習をするのだ。


 ……クラスメイトたちの視線が怖い。呪われた女呼ばわりされていた昨日と違い、もっとナチュラルに変人認定された気がしている。二人組体操では当然あぶれた。

 それなのに……。


「俺が相手になってやる」


 ドSな鬼が体の上に乗ってきた!


「き、き、きやああああ」


 私はジムでかなり重めなバーベルをあげてるマッチョさんと見紛うほどの悲鳴をあげた。冷たい視線がいくつも飛んでくるが、無理にかけられた圧に体が悲鳴を上げている。


「や、やめて。どいて」


 独り言を言い続ける痛い人になっているが、仕方ない。


「お前、体が硬すぎ。そんなんじゃ子を産めんぞ」


「そのセリフ、アウト!」


 だめだ。この男、コンプライアンス意識が50年前で止まっている。

 そして、50メートル走が始まった。


「9秒6~」


 おそらくはクラス最下位の秒数が、体育委員から高らかに告げられ、不甲斐なさに肩を落とす。私は、どの教科もまんべんなく不得意だが、体育は突出してだめだった。

 しかも体力もないと来ている。ヘロヘロな私に、紫苑は渋い顔になった。


「お前、舐めてるのか」


「……これ以上目立ちたくないから手を抜いたのよ」


 絡まれたくなくて、私は薄っぺらい嘘をついた。と、紫苑の形のいい眉根が吊り上がる。


「手を抜く……だと? お前のような弱っちいやつがわざと?? 100年早いわ」


 あ、失敗した、とその顔を見て悟る。最近起きたばかりで退屈しているこの鬼は、どうやらそこそこ熱血のようだ。


「あ、次には本気出すから」


「雑魚のセリフだ。だが安心しろ。俺がついてる」


 何する気? と問う暇もなく、紫苑は私を担ぎ上げると、思いっきり投げ飛ばした。


「うわああああああ」


 体育の先生に激突するまで、私の足は地面に一度もつかなかった。


「おおおおおおお」


 なぜか、その怪異に、称賛の声が上がる。


「先生、すみませんっ」


「いや、日々野もやればできるじゃないか」


 感動されてしまっている!


 紫苑を探して視線を巡らせれば、桜の木の上で腕を組み、満足そうに頷いている。


「……まったくもう」


 私は脱力し、小さくため息をつく。


 乱暴で迷惑で強引で、とんでもない奴だけれど、桜をバックに佇むその姿は思わずひれ伏したくなるほどの神々しさで……。


 見とれてしまったことを、本人には絶対知られないようにしようと心に誓った。

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