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500年の鬼と恋活JK  作者: あいすらん
1章

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11/13

タイムリミット

 食事が終わった後、コンは三角巾をはずし神妙な顔で言った。


「日和。話があるんや」


 ……ギクリ。

 当然お説教だろう。無理もない。


「先に言わせて……。昨日はごめんね。コンの忠告を聞くべきだった。次からは気をつけるから」


 頭を深く下げながら正直かなり怒られるのを覚悟していた。けれど、顔をあげた私が見たのは、どこか悟りきったようなコンの表情だった。


「できん約束はせんでええで。日和は誰かが困っていたら放っておけん性質や。火中の栗を拾う女。それが日和や。やめてもーたら、それはもう別人や」


 あれ? 

 ここでひとしきり突っ込むのがいつものコンの様式美なのに……。

 本当に解脱してしまったのだろうか。


「……それに気をつけてどうこう出来るレベルやもうない。覚悟して聞きや」


 シリアスな顔。私は思わず背筋を正す。

 コンは思い切ったようにこう言った。


「昨日の夜、俺は、雲の上から詠門市にどす黒い雲が渦巻くのを見た。それがもう街全体を覆っとる。俺はその瞬間悟ったんや。そのうち大変なことが起きる、ってな」

「どす黒い雲……」


 私はゴクリ、と唾を飲む。


「呪いとも言える邪悪な雲や。多少はどの街にもあるもんやけど、詠門市のそれは異常事態や」


 私の中のお助け魂が震え始める。


「ど、どうしたらいいの。ただでさえ、髪切り女で頭が痛いのに、街を覆うほどの呪いだなんて」

「大丈夫や。日和はアホやからこそ、ハズレくじと思いきや大当たりを引くことも稀にあるんや。昨日も全部が結果オーライやったしな。最大の収穫は兄貴というあやかしの王に出会えた事や。日和にとっては運命の出会いやで。お前はラッキーガールなんや」


 運命の出会い……。

 今話題に出されたのに、鬼はすまし顔で梅昆布茶を飲んでいる。

 和風の出で立ちに、梅の香りがとてつもなく似合っている。こっそり隠し撮りしたいほどだ。


「やっぱり……実は私もそんな気がしていたの」


 すぐそこにいるから、絶対聞こえているはずだけど、あえてヒソヒソ話に切り替える。


「ほんまかいな。それはますます朗報や。俺一人やと確信が持てんかったんやけど決まりやな」

「ええ。血柱に鬼に呪われた女に浦島太郎……ここまで揃ったら、流石に気づくわよ。私、謎解きは得意なんだから」

「浦島太郎?」


 コンは首をかしげる。


「あ、知らない? えっとね」

「いや、話なら知っとる。なんや、嫌な予感がしてきたんやけど……まあ、ええわ。続けて」

「ええ」


 私は頷く。


「私はおばあちゃんの遺言を勘違いしていたの。善行を積めば白馬の王子が現れるって」

「ああ、それそれ!」


 コンは笑顔になる。


「日和のばーちゃんすげーよな。バッチリ当たっとるわ。預言者ちゃうか」

「それがね……予言は予言なんだけど、解釈違いだったのよ……善行に見返りなんて求めてたら、バチが当たって地獄へ突き落とされるわ。浦島太郎がどうなったか思い出して。ふう、危ないところだった」


 コンはポカン、と口を開け、紫苑と私を交互に見る。

 紫苑は知らんぷりだ。絶対に聞こえてるとは思うんだけど。


「俺が解脱しとる間に、日和も妙な悟りを開いとるな。最後まで聞いてから判断するわ。続けて」

「現れるのは白馬の王子じゃなくて、強いバディだったのよ。つまり、それが……彼ってわけ」


 私は声のボリュームを上げる。ここは何としても、彼の耳に入れておきたいところ。

 さっきは弾みで彼に抱きついてしまったけれど、実はその後すぐに私は反省モードになっていた。

 平謝りで離れた後も、変に気持ち悪がられていたらどうしよう、と悩んでいたのだ。


(鬼とはいえ凄まじいイケメン……よこしまな気持ちはなかったけど、あると思われても仕方ない)


 セクハラで訴えられないためにも、ここは言い訳のビッグチャンスだ。

 コンにどんどん掘り下げてもらいたい。

 目論見どおり、コンは首を傾げながら尋ねてくる。


「んー。おかんにわかるように説明してくれるか? バディと王子、どこに違いがあるんや?」


 待ってました!


「大ありよ! 王子なら恋心、バディとは使命で繋がるわけだから。邪念のあるなしじゃ、全然違うわ」


 あやかしと人間の主人公(ほとんどが男性)が、最初は反発しつつも協力し、敵とのバトルを繰り返すうちに強い絆で結ばれていく。

 おばあちゃんの残してくれたあやかし物のマンガには、そんなストーリーも沢山あった。


(それなのに私ったら……発情してるって言われても仕方ないほど、ときめきにばかり目を向けていた……)


 おばあちゃんはきっと、もっと高尚な使命に目を向けてほしかったろうに。

 駄目な私。

 でも、今からは迷わない。


「これからは鬼と人間……正反対の2人が協力しあって、街を浄化していくのよね? 説得なら任せて。私の対話力でなんとかするから。きっと協力してくれるわよ」


 私はチラチラと紫苑に視線を送る。

 無実のアピールチャンスに飛びついた形だが、それ以外の目的もあった。

 500年の孤独を耐え抜いた彼の、新たな生き甲斐を提示できれば、なんてちょっぴり思ってもいたのだった。

 誰かを助けてありがとうと言われる高揚は、私みたいな、対話程度しかできない人間でさえも、毎回味わっているもので。

 紫苑には鬼の神通力がある。弱いものたちを、ごっそり助けることだって出来るのだ。

 まずは一度それを経験して……。


(病みつきになってくれたらいいんだけどなあ)


 そうしたら、弱いあやかし達も、もう泣かずにすむだろう。

 これぞウィン・ウィン。最高すぎる軌道修正。


「なるほど。ゆくゆくは兄貴と一緒にパトロールをするっちゅうわけやな。拍子木鳴らして」

「あら、それ、いいわね!」

「アホか。お前、あやかしの王に何やらすつもりねん!!!」


 頭突きされて、私は悲鳴をあげる。


「い、いたっ」

「それに、忘れたんか。恩には恩を。返す奴だけ助けろや、言うたやろ。見返りのない善行を拡大しとるやないかい、何考えとんじゃボケえ!!」

「だって! 私はきっとそういう星のもとに生まれたのよ。この先きっと何か隠された能力が開花して……」

「マンガの読み過ぎや! このアホがああああ。くううううう、煩悩が戻ってきたやないかい!」


 コンは声を荒げた。


「残念なお知らせや。黒い雲とは雑魚妖どもの怨念や!」

「怨念……」

「はっきり言うて元凶はお前や。お前があやかしホイホイなせいで、全国の雑魚妖が詠門市へ集まっとる。そして日和の能力は確かにそのうち開花する。17の誕生日が解禁日や。けど、それはより一層、あやかしを惹きつける香りのせいや。日和。お前の香りはあやかしにはたまらんフェロモンがあるんや」


 フェロモン。

 なんだか、自分には一番縁遠い単語が現れた。


「まさか」


 私は笑った。


「私の特技は対話力よ。あやかしと話せるのは私だけ。しかも説得力もあるわけで」

「お前のトークスキルは正直0や。なあ、兄貴。兄貴ならわかるやろ。ビシッと言ったってくれんか」

「俺が? こいつに?」


 いかにも面倒そうに、紫苑は眉をひそめる。

 それでもコンは食い下がる。


「もう、俺にはお手上げなんや!」

「……クソが」


 紫苑は吐き捨てるようにいい、私はビクッと肩をすくめる。

 怒らせた?

 彼は皿の上の食べかけの魚に箸をつけた。無視されるかと思いきや、彼はボソリと言葉を放つ。


「お前は、この魚みたいなもんだ。雑魚妖にとって、とりわけ美味そうな餌……しかも、自ら食べてくれと言わんばかりに体を投げ出している。自己犠牲は奴らにとって、何よりも尊い美食だろうしな」


 そして、紫苑は私をチラリと見る。


「俺もお前を初めて見た時に思った。この女が欲しい、と」


 ……えっ?

 頬が赤くなっていく。

 反省したとはいえ、16年間少女漫画で培われた恋愛脳を舐めないで欲しい。

 そのセリフはヤバい。いや、違う。この人は鬼だった。

 変な意味じゃなくて、その通り?

 捕食されるの?

 ああ、もう、全然わからない。


『欲しい。食いたい。蹂躙したい。恐怖のどん底に突き落としてその涙を味わいたい』


 どこからか、そんな声がして……私はハッとして彼をまじまじと見た。

 いや、違う。まさか……。

 心の声だったかも、なんて、そんなまさか。


 紫苑は箸で魚の身を綺麗にほぐした。

 一瞬、心臓に触れられた気がして、背筋が震える。


「美味いものが無防備に身を投げ出していれば、食ってやるのが礼儀だ。雑魚たちなら余計にそう思うだろうな。万年飢えているだろうから」


 そう言いながら、紫苑はぱくりと魚を口に入れる。まるで自分が食べられた気がしてゾッとする。

 コンは言った。


「飢えたあやかしが日和に涎を垂らしとる。我慢の限界が来年の誕生日っちゅうわけや。その日に贈られるのは花束なんかじゃない。恐ろしい死の接吻や。もうカウントダウンは始まっとる。ボヤボヤしとる場合やないで」


 そんな……!

 がーん、という頭の上に石でも落ちてきたような音が鳴り響く。

 だって、それじゃ、本当に元凶は……私なの?

 恐怖より、罪悪感が強く私の胸を突き刺していた。

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