私が追放を選んだ理由を、幼なじみの王子は絶対に許さない
追放された聖女です。
嘘です。
追放されるように仕向けた聖女です。
理由は単純です。
幼なじみの王子と聖女だからと結婚させられそうになったからです。
そんな理由で好きでもない人と結婚できません。
「聖女ー!」
呼ぶ声に振り返ると、馬車を追いかけて王子が馬を走らせています。
も、もう、私が出てきた事に気づかれた!
「もっと、急いでください!」
私は御者さんにお願いします。
「無理です!」と言う声がかすかに聞こえてきます。
「俺と結婚したくないからって、聖女を辞めるなんて、絶対に許さない!」
馬車の横に追いついて、怒って叫ぶ王子の顔がとても怖いです。
……嘘です。
王子の顔を見ただけで、私の胸は高鳴って、今すぐにでも王子に抱きしめて貰いたくなっています。
そんな自分の心が嫌です。
この国には私みたいな無能聖女ではなく、最近見つかった有能聖女様が必要なんです。
王子には、この国の為にも有能聖女様と結婚して頂かなくては!
◆◇◆
王子から逃げられるはずもなく馬車は止められてしまう。
王都の城壁がまだ近くにあります。
王子が御者さんを睨んでいました。
し、仕方ありません!
服の裾を強く握って深く息を吐くと、意を決して馬車の外へ出ます。
「お、王子! 御者さんは仕事で私を運んでくれただけで、私があなたから逃げた事には関係ありません!」
「やっぱり、俺から逃げたのか」
あ……。
「ち、ちちちちち違います! 聖女としての能力がひ、低いので、新しい有能聖女様と交代したんです!」
私の癒しの力なんて、その辺の草花を元気にする程度で、かすり傷なら治せても、有能聖女様のように深い傷は治せません。
前世の道具で言うところの、ガーゼの絆創膏とジェル状絆創膏くらい違うんです!
「お前が聖女を辞めることまで許す。だが、田舎に帰る必要はないはずだ。戻るぞ!」
王子が私の身体を抱き上げて、自分の馬に乗せようとします!
「ま、待って下さい! 新しい聖女がいるのに、古い聖女がいたら、王都のみんなが混乱します! 古い聖女は去るものなんです!」
王子は少し考えて納得してくれた。
「じゃあ、俺も一緒に帰ろう」
「帰るって、王子の田舎じゃありません!」
これです! これがあるから、私は聖女を追放されて田舎に帰る事を選んだんです。
王子は何でも私を優先して、他のことを放り出してしまうんです。
これでは国が滅びます!
「結婚するんだから、俺の田舎も同じだ」
馬に私を乗せて、王子は本当に王都と逆に走り出す。
「わ、わかりました! 王都に戻ります!」
私は叫びます。
「いや、俺がお前の実家に行きたい」
「え! ええ〜!?」
どうして、そうなるんですかー!
◆◇◆
王都の城壁が小さく見える丘の上で、やっと王子は止まってくれました。
「王子! 急に訪ねてこられても、実家が迷惑します! やめてください!」
私は馬に揺られてフラフラになりながらも、王子に怒って言います。
「じゃあ、どこに行く? 聖女が行きたいところに、どこへでも連れて行く」
王子はなんでこんなに元気なの!?
「いえ、もう疲れました。王都に戻りましょう。本当に……」
「新婚旅行は、いいのか?」
もう、この王子から逃げられない。
少し遅れて馬車が追いかけて来るのが見えた。
「……私は馬車で戻ります」
追放されて1時間くらいでしょうか?
短い自由でした。
「ふふふ!」
私は自然と笑みが溢れていました。
「あははは」
王子も笑っています。
ずっと小さな頃にもこんな事があった。
聖女だからって王子と婚約させられて、私なんか王子に相応しくないって、逃げたんでした。
鬼ごっこの延長みたいに王子に追いかけられて、王子からは逃げられないって諦めたんでした。
懐かしいです。
「昔から、どうして、王子は私を追いかけてくるんですか? 何も出来ない役立たずなのに」
王子は私を見る。
「お前が慰問した後の兵士たちの様子を知らないのか?」
「みんなやる気になっていますとは言っていただけますが……」
社交辞令で、間に受けないのが前世のマナーです。
「兵士たちは本当にやる気が出て、二、三日は訓練の成果が違う。目に見える違いじゃないが、数字を確認すれば分かる。訓練時間が伸びて、訓練回数が増える。少しの違いが積み重なって、お前のよく行く兵舎と行かない兵舎では、兵士の質が全く違っている」
ええ! そんな事が!?
「調べなければ分からないから、父上や大臣たちもお前を軽視している。お前自身も気付いていないしな」
「か、買い被りすぎです! そんな能力は、私にはありません!」
王子が見ている聖女像が凄すぎてびっくりです!
王子が好きな人は私じゃない! 聖女を解任されて良かったです!
なんとか、王都に戻った後に逃げ出す事を考えましょう!
「よからぬ事を考えてそうだな、聖女」
ゾクっとした。
王子の目つきが鋭い。
考えてません!
「お前の自己評価が低いのも当然なんだ、周りのものに無自覚でやる気を与えてしまうから、お前は周りの人間を無自覚に有能に育ててしまう。結果、自分が無能に見えてしまうんだ」
……。
「それは、本当に、私に都合のいいストーリーです……」
なんだか、納得できてしまうけど……。
「聖女……。俺が、疲れて部屋に戻って、朝には萎れていた花が元気に咲いているのを見て、どれだけ癒やされていたか分かるか?」
王子が真剣に私を見つめる。
「お前が部屋を訪ねて来ていたのかと、気配を感じるだけで、やる気が出た」
小さな頃の事だ。
最近は王子の部屋に入ってない。
大人になって、自信を失い過ぎていたのかもしれない。
花を元気にしただけで、王子が笑ってくれることを私は知っていたのに……。
「新しい聖女がどれだけ身体を癒せても、俺の心を癒せるのはお前だけだ」
王子に見つめられて真っ直ぐに言われると胸が苦しくなって、どうすればいいか分からなくなります。
追いついた馬車に乗り込み王子と離れられると少しホッとしました。
でも、
「有能聖女は俺がお前を聖女の役目から下ろすために連れて来たんだ」
そうだったんですか??
「俺の婚約者になるつもりで父上と話しているらしいが……。傷を治すだけなら、傷薬や包帯でもできる。無能はあっちの方だ」
「有能聖女様は、『ご実家で休んで下さい』と声をかけてくださったり、お優しい方ですよ!」
高笑いで送り出して頂いて、『田舎で王子よりもっといい男を捕まえて見返してやる!』と元気が出ました。
「お前が、そばでやる気を送れば、もっと有能になるだろう。衛生用品で代用できないくらいの本当の有能聖女にしてくれたら、お前の身代わり以上の価値も出る。
まあ、お前の代わりに兵士の質を上げることは不可能だが、俺の妻になったお前がいるから問題ない」
「つ、妻って! 私を聖女とか能力じゃなく、私を好きになってくれる人と結婚したいんです!」
「はじめて会った時からお前を好きな俺以上に相応しい奴はいないだろ」
王子が言う。
「え……?」
「子供の頃もお前がそう言って逃げたから、捕まえた時の言っただろう?」
『俺は、聖女の事が大好きだから、ずっと側にいてください……』
あ……。
「って、王子! なんで子供の頃はあんなに素直で可愛かったのに、今はそんなに偉そうなんですか!?」
「う、うるさい奴だな」
偉そうな王子が、少し赤くなった。
て、照れてるの!?
「とにかく、戻ったら、お前はもう聖女じゃないんだ。俺と結婚するしかない」
そう王子が言って馬車の扉が閉められた。
そ、そうでした!?
馬車から遠ざかる王子の私への勝利の笑みを見ながら、もしかして、聖女を追放されたのは失敗だったのでは!?
後悔しても、今更もう遅い……ですけど。
兵士の質や他のやる気もとても大事な事で、王子は私を最優先にして国のことを考える有能でした。
私はこの能力から逃げられない!
私と幼なじみ王子との結婚は確定事項です!
でも、王子?
鬼ごっこで捕まった私。
だから、今度は私があなたを捕まえる。
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