30.港町と猫耳
峠を越えるとその先は緑に囲まれた漁港の街を見つけた。砂丘から眺めた感じだとそんなに大きな街じゃなさそうだけど、貨物船が停泊してるくらいには賑わってるみたい。何より街へ行けば乙女を拝める……。ふふふ……。
丘を下りて港へ。
海。それは絶好の告白シチュのスポット。仄暗い夕暮れ前に乙女2人がこっそり出会って、各々に想いを語り合う。そして抱きしめ合って百合となる。つまりこの街では毎年百合カプが誕生していると言って過言ではない。
「大事な用があるので今夜はここで泊まりましょう」
「ヴィヴィの大事な用はテテでしょ」
「さすがフェネ、分かってます。百合信仰旅団として新たな百合カプ誕生の瞬間を見守るのが義務です」
「ただのストーカーでは?」
「万一魔物や暴漢が出たらすぐに守れるためです。やましい心など天の滝と共に流しました」
「毎回つっこむのが面倒すぎる」
フェネは最後に分かってくれるから尊いです。後ろを歩いてるモノコとラプちゃんは海を眺めていました。
「……綺麗」
「ラプちゃん、それです!」
振り返って肩を掴みます。蝙蝠の羽がビクッと跳ね上がったのがかわいい。
「それは尊語の綺麗違いです。女の子2人が海を眺め合っていて、綺麗だね、と話しているけど、本当はあなたが綺麗だよって意味なんです。覚えていてください」
「……海面で自分の顔を見たら? その心を映してくれるかも」
「それはつまり君の気持ちが私の気持ちだよという高等尊語です? ラプちゃん、もうマスターするなんてすごいです」
これはもう百合副団長の座を渡す日は近い……!
「……フェーはよく毎日会話できるね」
「会話と思わなければいいんだ。動物と接する時に餌を与えるだけでもコミュニケーションが成立するだろう? あれと同じ」
ほほう。やはり獣人は動物との意思疎通も完璧なようです。猫と戯れているフェネなんて最高に尊いです。
「わたくしも海へ来たのは久しぶりです。屋敷を出る前は商会の関係でよく来ていましたけれど」
「それはつまり異国の地で逢引きです? 時々しか会えないのはより一層百合の熱が強くなるんです。これも覚えてください」
「ラプスさん、パンドラボックスでヴィヴィさんを閉じ込めておくのはどうでしょう?」
モノコさん何を言ってるんです!? マゾと思いきや独占欲つよつよのドエスタイプだった!? 私、モノコの所有物にされちゃいます。それってつまり……愛……尊い……。
しかも誰も反論していないし、これはもうそういうことで確定です? ラプちゃんのパンドラちゃんが出現。
「ダメですよ。人を中に入れるのはギルド法令に違反しています」
乙女の所有物になるのは大歓迎ですが、乙女が牢屋行きになるのは断固拒否。
そしたら全員が放心して私を見ています。おかしなことを言ったでしょうか?
「ヴィヴィが正論を言うなんて……」
フェネ!? 私だってモラルはあるから!
「まぁでもヴィヴィだと閉じ込めても無理矢理出て来るだろうから、やめておいた方がいい」
やっぱりフェネは私をよく分かっています。やはり副団長の座はフェネが一番近いです。
そんな感じで船の近くに来ると活気に溢れていた。新鮮な魚を叩き売りしていたり、魚料理を振る舞っていたり、貨物の荷物を獣人さんが運んでいます。あんなに大きな木箱を片手で持ち上げてるのすごい~。
「フェネフェネ。お仲間ですよ? 挨拶いきます?」
「獣人を限界集落の出身か何かと勘違いしていない?」
いや~、人界にいると他種族を見るとやはりテンションあがるというか。
ほわっ!? あそこに綺麗な茶髪セミの猫耳少女さんがいる! しかも猫の尻尾で大きな樽を軽々持ち上げて運んでる。すごい。置いたら尻尾をフリフリして船へ歩いている。なにあれ、尊っ!
これはお声をかけてお近づきになりたい……! だって猫耳少女かわいい!
猫耳ちゃんのフェロモンに釣られてふらふらと歩いていたらケープを引っ張られる。ぐへー。
「仕事の邪魔はしないように」
「邪魔はしません。少し応援するだけです」
「その行動がすでに邪魔だって言っている」
「でもフェネよく考えてください。百合信仰旅団なのに最近百合布教できていないと思います」
乙女の保護には成功しているけど、そもそも肝心の布教活動が全然できていない。
「……初耳」
「百合布教も立派な活動の一環です。これが教典です」
前の街で反省したので急遽教典を制作しました。魔力で具現化した本をラプちゃんに渡して見せてみる。中には私の尊い語録が大量に収録されています。
「……なにこれ、尊いしか書かれてない。外界の娯楽がここまで遅れていたなんて」
ラプちゃーん、その本は娯楽じゃなくて教典ですー。
あれ、モノコはどこへ行ったんだろう? 見渡したら船の近くであの猫耳少女ちゃんと仲良く談笑してるではありませんかー! これは百合副団長の座に近いです!
「さすがノワールの人間だね。顔が広い」
「つまりモノコと結婚すれば世の獣人ちゃんを手中に?」
「発想が下賤な貴族と変わってない」
私は仲良くなりたいだけで地位とか興味ないのにその言い草は酷い。
モノコが戻ってきた。
「昔取引のあった相手でしたから少し挨拶をしていました。お手数かけました」
「いえいえ。それよりモノコ、私をあの猫耳ちゃんに紹介してくれませんか? いえ、変な気持ちはなくモノコの友人として名乗るのが礼儀かと……!」
こんなに懇切丁寧に訴えているのに私の話を誰も聞いてくれません。悲しい。
仕方ない。船が出航する前に猫耳ちゃんを拝んでおこう。
……はっ! これは乙女の嘆きが聞こえる!
周囲を見渡す。すると街中にポツンと佇む女の子がいました。手には小さな紙袋を持っていてその視線の先は……猫耳ちゃん。大変、船が出て行っちゃう!
銃を具現化させて空に空砲を放った。パァンと甲高い音と共に全員の視線を一気に浴びる。野郎はいらなーい。猫耳ちゃんの足が止まったから、今のうちに女の子の手を引いて桟橋へと連れて行く。
女の子を戸惑っていたけどペコリとお辞儀してくれた。私は颯爽とその場を離れてコンテナに隠れる。決して告白現場を聞きたいとかそうじゃなくて、万が一に備えて。
「あの。これ」
「わぁ。美味しそうなクッキー。くれるの?」
「うん。いつも荷物届けてくれてありがとう。こんな場所だから大変だと思ってお礼がしたくて……」
「仕事だからいいよ。ありがとう」
「また、来てくれる?」
「また来るよ。バイバイ」
尊死っ……! 告白じゃなかったけど、その一歩手前レベル……! これはもう未来の百合確定です。誰がなんと言おうとそうです。間違いない。猫耳ちゃんと人間の女の子の幸せを願って祈ります。




