28.尊い記念日
荒地の中にある火山地帯。その一角に不自然な洞窟がある。フェネ曰く、かつて人界で鉱石を採掘をしていた場所らしい。火山の噴火の被害のせいであまりに危険だから採掘を撤退して今は坑道だけが残っているとのこと。火山なんて噴火するのが当たり前なのに何でそんな当たり前のことも分からないのかが不思議。
坑道は真っ暗だ。私は暗闇でも余裕だけど皆はどうなんだろう。と思ったらフェネが火の玉をふわふわ浮かせて明かりにしてくれた。お助け獣人とは彼女のことです。
「モノコ、足は大丈夫ですか?」
「……水なら沢山あるよ」
「平気です。この程度で根をあげてられません」
ほう。こんな肉体労働の最先端なところに来ても物怖じしないとはさすがお嬢様。
「最近は前より少しだけ歩くのもマシになっています」
「毎日歩き通しだからね。足が慣れてきたのだろう」
やはり日頃からの鍛錬が大事。つまり毎日百合布教していればいずれ皆も分かってくれる日が来る。信ずる者が救われる。それこそ百合。
薄暗い坑道の中、ラプちゃんが軽快に飛んでいった。あの羽って飾りじゃなかったんだ。はじめて動いてるところを見たような。蝙蝠の羽がパタパタしててかわいい。尊い。
壁に方に行ったら、そこに少しだけ光る赤い物体が突起してる。ラプちゃんはパンドラボックスを出して、中から小さなハンマーを取ってそれで鉱石を叩いてる。
「火光石ですわね。まだ採掘が可能かしら?」
「……うーん」
ラプちゃんがモノコにそのなんちゃら石を見せてる。
「確かにこれは純度が低いですわね。まだ入り口ですからマグマの養分が足りていないんじゃないかしら?」
「……多分そう。キラキラが足りてない」
「とはいえ今では純粋な火光石の流通は少ないですわ。市場に出回っているものは、低純度のと混ぜ合わせた混成が普通です。この坑道もこのような状態であれば高純度の物はすでに回収されている可能性が高いですわね」
「……残念」
なんか専門的な話をしています。全くついていけません。
「フェネ~、ラプちゃんとモノコは何を話しているんです?」
「百合の純度についてでも語ってるんじゃないの」
適当すぎ! こんな薄暗い場所に百合があるわけない!
「私も鉱石には詳しくないから専門的な理解はない」
「フェネにも知らないことがあったです?」
今日一番の衝撃……!
「むしろ普通は知らない方が多いでしょ」
「これは大変です。このままだとモノコに博識ポジションが取られます。フェネはそれでもいいんですか」
「むしろ喜んで譲るけど」
フェネはもう少し百合信仰旅団のポジションを理解して欲しい。
「純粋な鉱石が欲しいなら結晶トカゲを探した方が早いかもね」
「こんな坑道にいますの?」
「まだ鉱石が残っているなら食料がある証拠だ。結晶トカゲなら多少質がよくなるんじゃない?」
「……捕まえるのが大変」
「それに量も大して取れないと思いますの」
「……量はそこまでだから問題ない」
「だったら結晶トカゲを探そうか」
はーい、完全に蚊帳の外でーす。なんの話か全然分かりませーん。求む、百合。
はぁ。この洞窟にてぇてぇはいないの? 坑道の奥には光る小さなトカゲしかいないし。んん? もしかしてあれが結晶トカゲ? なんか壁の光る石を食べてる。へー。しかもそこそこの数がいます。
「なんか奥に一杯いますね~。あれがトカゲちゃんですか」
「……また病気?」
ラプちゃん、それは本気で傷付くのでやめて。
「何も見えませんけど」
「あー。そういえばこの天使、めちゃくちゃ目がいいんだった」
空から百合を観察していたので! いえい!
「だったら好都合だね。結晶トカゲは人の気配を察知したらすぐ逃げるんだ。ヴィヴィの魔法で捕まえたら早いかも」
「でも私役立たずの天使ですし、嫌われてますし、頭に百合咲いてますし、こんな私が力になれるとは思えないです」
最近ずっと蚊帳の外だからもう私がいなくても百合信仰旅団は回るんじゃないかなって思ってる。私が最近役に立ったことってなんだっけー?
「……ヴィヴィお姉ちゃん、お願い。頼れるのはヴィヴィお姉ちゃんしかいないの」
「任せない。お姉ちゃんが全部乱獲しましょう」
幼女の上目遣い最強。やる気もぜんかーい!
「単純すぎる」
「わたくしは好きですわよ。あれくらいはっきりしてくれた方がこちらもやりやすいですもの」
「モノコ、今なんと!? なにやらとってもてぇてぇな単語を拾ったのですが!」
「好き嫌いの好きと言っただけです。他意はありません」
お嬢様の他意はないは他意があると知っている。今日はすばらしい一日です。やっぱり毎日祈ってるからちゃんと効果が出てるんだ。日頃の努力って本当大事……!
というわけで結晶トカゲちゃんを魔法の檻で閉じ込めてあげました。具現化魔法で箱を造れば逃げ場なんてないのだー。チョロチョロ走り回ってるけど無駄でーす。
「捕獲完了」
「本当戦闘面だけは尋常なく頼りになるんだけどなぁ」
フェネも褒めてくれた! 今日は全員から褒められたすばらしい日。尊い記念日にしたい。
「それでどうやって鉱石を取るんですの?」
トカゲちゃんの体には赤だったり白だったりの鉱石の突起物が出てる。食べたのがそのまま出てる感じ?
「……そのまま触ると逃げられそう」
トカゲなんてスルりと逃げそうです。
「OK。じゃあ私の銃で気絶させます。どうせ殺せないので」
トカゲちゃんに銃弾命中。ひっくり返った。死んだふりはやめなさい。ともかく他のトカゲちゃんにも等しく発砲。乙女じゃないなら余裕。
「これで天使を名乗ってるのが疑問すぎる」
フェネ、天使にも色々あるんです。それに殺生はしてないからセーフ。
ラプちゃんは結晶トカゲを掴んで、それで……鉱石を引きちぎった。
てっきり私はハンマーで砕くと思ったんだけど、力技だった。幼女強い。
「これは素晴らしい純度ですの。体内に溜め込んでいたのかしら?」
「坑道が廃棄されて結晶トカゲが鉱石を蓄えていたのだろう。マグマにも強いし、ここに住み着いて長かったんだろうね」
よく分からないけどレア物ってことですね!
「そういえばラプちゃんはどうしてこの石が欲しかったんですか?」
ラプちゃんは何も答えずパンドラボックスを呼び出してる。スルー……。
やっぱり私は嫌われてる気がしてきた……。
するとラプちゃんは小さなハンマーを取り出して白く光る石を丁寧に砕いている。なぜかモノコが小さな悲鳴をあげてる。レア物だから?
それで断面を造りながら丸い形に整えてる。手際がいい。小さい手でよくこんなに器用にできるなぁ。それで時間をかけて丸い形に仕上げて、最後に綺麗に拭いてる。
そこに銀の輪っかの金具で固定して……まぁなんということでしょう。真っ白のブローチが完成しました。
ラプちゃんの作業は続いて、さらに金、赤のブローチも造ってしまいました。
「……これ」
1人ずつに配っていって、フェネには赤のブローチ、モノコには金のブローチ、そして私には白のブローチ。
「……ずっと、お礼をしたかった」
「お礼?」
何かした? 寧ろいつも助けられてばかりだったし、それに最近は機嫌を損ねることまでしたので心当たりが全くない。
「……外界に来て分かった。やっぱり外の方がわたしには合ってるって。もし、皆と出会えてなかったら一生あそこで細々と生活してたんだろうなって。だから、連れ出してくれたお礼」
ラプちゃんは手を後ろに回して恥ずかしそうにもじもじしてる……尊……死……。
「ありがとう、ラプス。大切にする」
「えぇ。これは値段の価値以上にあなたの思いが詰まってると理解します。だからわたくしも大切に致します」
フェネとモノコが服にブローチを留めてる。どっちも似合ってる。フェネの赤、モノコの金、ラプちゃんの青、そして私の白。まるで私達のそれぞれの色を表してるようです。
「私ラプちゃんに嫌われてるってずっと思ってました……」
たまにお礼言ってくれる時もあったけど、差し引きマイナスの印象だった。
「……口にすると恥ずかしい、だけ。だから、ありがとう」
よ、幼女の笑顔っ……。あぁ、ここが天国……光が……光が見えます。尊いの扉が見える……。
「私もラプちゃんにお礼が言いたいです。いつも助けてくれてありがとうございます。私、一生ラプちゃんに付いて行きます!」
「……付いて行くのはわたしなんだけど。勝手にリーダーにしないで」
せっかくデレてくれたのにもうツンモード……。でもそこがいい、癒される。
やはり今日は尊い記念日にしましょう。百合信仰旅団、尊い記念爆誕です。




