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第10話:華やかな式


初夏の宮廷は、華やかな結婚式の準備に沸いていた。王国第二位の錬金術師と宮廷近衛騎士の結婚は、身分違いの恋としても話題となり、多くの注目を集めていた。


「本当に美しい」


純白のドレスに身を包んだリナを見て、侍女たちが感嘆の声を上げた。シンプルながらも上品なデザインのドレスは、リナの銀髪と紫の瞳を一層引き立てていた。


「緊張されていませんか?」


「少し……」


リナは鏡の中の自分を見つめながら答えた。農家の娘が宮廷で結婚式を挙げるなど、夢にも思わなかった。


「でも、幸せです」


その言葉に嘘はなかった。セドリックへの愛情が、不安を上回っていた。


式場となった宮廷の大聖堂は、色とりどりの花々で飾られていた。貴族たちが続々と席に着く中、様々な思惑が渦巻いているのが見て取れた。


「あの娘、本当に農民出身なの?」


「随分と気品があるじゃない」


「でも所詮は成り上がり者よ」


賞賛と中傷が入り混じった囁き声が、聖堂内に漂っていた。


新郎席でセドリックが待っている。普段の騎士服とは違う正装に身を包んだ彼は、いつもより凛々しく見えた。しかし、その表情には僅かな緊張も見られた。


「大丈夫ですか?」


同僚の騎士が心配そうに声をかけた。


「ああ、問題ない」


セドリックは微笑みを浮かべたが、内心では複雑な思いを抱いていた。上司からは身分違いの結婚を快く思わない視線を向けられ、一部の貴族からは露骨な反対意見も聞かされていた。


「それでも、僕は彼女を選ぶ」


心の中で改めて決意を固めた。


オルガンの音色が響き始めると、聖堂内が静寂に包まれた。扉の向こうから、リナがゆっくりと現れた。


バージンロードを歩くリナの姿に、会場からは感嘆のため息が漏れた。緊張しながらも一歩一歩確実に歩む姿は、まさに美しい花嫁そのものだった。


セドリックの顔が歓喜に輝いた。彼女の美しさもさることながら、自分のもとに歩いてきてくれている事実が何より嬉しかった。


「きれいだ」


小さく呟いた言葉に、隣にいた騎士が微笑みかけた。


祭壇の前で二人が向き合うと、司祭が厳かに式を開始した。


「セドリック=エルヴィス、汝はここにいるリナ=ヴァルメリアを妻とし、病める時も健やかなる時も、共に歩むことを誓うか」


「誓います」


力強い返事に、リナの目に涙が浮かんだ。


「リナ=ヴァルメリア、汝はここにいるセドリック=エルヴィスを夫とし、喜びも悲しみも分かち合うことを誓うか」


「誓います」


二人の誓いの言葉が聖堂に響くと、温かい拍手が沸き起こった。反対していた人々も、この瞬間ばかりは素直に祝福していた。


「では、指輪の交換を」


セドリックがリナの指に結婚指輪をはめ、リナもまたセドリックの指に指輪をはめる。プロポーズの時よりも重みのある儀式に、二人とも感動を隠せずにいた。


「神と皆様の前で、二人は夫婦となりました」


司祭の宣言と共に、会場は祝福の拍手と歓声に包まれた。


「おめでとう」


セドリックがリナを優しく抱きしめた。


「ありがとう」


涙を流しながら答えるリナの姿に、会場の多くの人々が感動していた。


式の後の披露宴では、様々な人々から祝福を受けた。


「おめでとうございます、リナ」


ヴィクトル師匠が現れた時、リナは驚いた。


「師匠」


「幸せになれ」


普段は厳格な師匠の優しい言葉に、リナは深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


しかし、師匠の表情の奥には、わずかな不安も見え隠れしていた。


「困難があっても、お前の選択を信じろ」


その言葉の真意を、この時のリナは理解できなかった。


「リナ様、本当にお美しい」


同僚の錬金術師たちも次々と祝福に訪れた。中にはマルセルの姿もあったが、彼の表情は複雑だった。


「おめでとう」


表面的な言葉とは裏腹に、その瞳には嫉妬の色が宿っていた。


夜が更けるにつれ、披露宴も盛り上がりを見せた。音楽に合わせて踊る新郎新婦を見て、多くの人々が微笑んでいた。


「幸せそうね」


「ええ、本当に」


女性たちの祝福の声が聞こえる一方で、男性の貴族たちの間では別の話題が上がっていた。


「あの結婚、政治的にどう影響するかな」


「農民出身の錬金術師が宮廷の一員になるということか」


「影響力を考えると、軽視はできまい」


早くも政治的な思惑が動き始めていた。


深夜、新居となる宮廷内の住居に戻った二人は、ようやく二人だけの時間を持つことができた。


「疲れましたね」


ドレスを着替えたリナが、安堵の表情を浮かべた。


「でも、素晴らしい式でした」


「君がいてくれたからです」


セドリックが優しく微笑みかけた。


「これからよろしくお願いします」


「こちらこそ」


二人は静かに抱き合った。外の世界がどんなに複雑でも、この瞬間だけは純粋な愛情に包まれていた。


「明日からは夫婦なんですね」


「まだ実感がわかないな」


セドリックの言葉に、リナは幸福そうに笑った。


窓の外には満天の星空が広がっていた。二人の新しい人生の門出を祝福するかのように、星々が美しく輝いている。


「お祖母様、見ていてくださいね」


小さく呟いたリナの言葉を、セドリックは優しく聞いていた。


十九歳の夏、リナは農家の娘から宮廷錬金術師の妻へと、人生を大きく変えた。この結婚が彼女にもたらす幸福と試練を、まだ二人は知る由もなかった。


ただ、愛し合う二人には、どんな困難も乗り越えられるという確信があった。それが若さゆえの楽観なのか、それとも真実なのかは、時間だけが教えてくれるものだった。


新婚の夜は静かに更けていき、二人の新たな人生が始まろうとしていた。


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