バタバタあわあわ
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「まあまあ、マルクさんいらっしゃい。」
「ん、む、良く来たな……」
ダーウィング家の玄関ホール、緊張で動きがぎこちなくなってるマルクを、ダーウィング家の面々が出迎えている。
ニコニコと頬を染めるアリシア、そのアリシアを微笑まし気に見つめるクレア、イヴァンはなぜかマルクよりも緊張して見える。
アンディ、トビアス、ジョナスの男子三人は、基本的には妹であれ姉であれシスコンなので、ちょっと複雑な表情だ。
「あら?フィーちゃんがいないわ。」
「あれ?そう言えばシドもいないね。一緒に出迎えるはずなのに。」
アリシアとアンディの言葉に、皆キョロキョロと辺りを見回す。そこに執事見習いのパッセルが、おずおずと声をかけた。
「あの、フィーリアお嬢様は緊急事態だとおっしゃって、シドさんを連れて出かけました。夕食までには帰るつもりだけど、もし間に合わなかったら待たずに食べていて欲しい、と。」
フィーリアは、トマスとの打ち合わせの後、パッセルに伝言だけして慌ただしく出かけていた。
「緊急事態……何だろうな……?」
「今日は午後からトマスとの打ち合わせだったわよね?商会で何かあったのかしら?」
「マルクさんが来るのは知ってるんだから、よっぽどのことじゃないかしら……?」
事情がわからないのは不安が残るが、シドが付いているのは安心材料だ。帰ってきたら話してくれるだろうと、一同はマルクのもてなしをすることにした。
「ごっごめんなさーい!間に合って……ないね。」
勢いよく開けられた食堂の扉。飛び込んできたフィーリアは、もう食事を始めている一同を見て泣きそうになっていた。
「ほ……ホントごめんなさい。マルクさん、いらっしゃい……」
「大丈夫ですよ、フィーリア様。急いで帰って来てくれたんですよね。ありがとうございます。お会いできて良かったです。」
「そうよ、フィーちゃん。なんか大変そうな時にごめんね。」
お互いに謝り合う様子に、クレアはちょっと笑ってしまった。本当に良い子たちだ。そしてマルクも良い人だ。
アリシアが、何かに気付いた。
「あら?シドは?一緒じゃなかったの?」
途端にフィーリアの目が泳ぐ。
「え~っとぉ、ちょっとシドには頼み事があって、ブラン爺のところに置いてきちゃったの。それで……実は私も食事が終わったらすぐまたブラン爺のところに戻らなきゃいけなくて……」
「ブラン爺、とは確かブランドン閣下のことですよね?何かあったのですか?」
「いやぁ~まぁそのぉ……」
「フィーリア、マルクさんはうちの家族になるんだ。何も隠さなくとも大丈夫だぞ。」
思わぬところでイヴァンがマルクを認める発言をして、全員の顔に笑みがこぼれる。
(シドさんが戻らないのは、頬っぺたぱんぱんに腫らしてたからじゃないのかなあ?)
そう思ったのは、出掛ける直前のシドを見たパッセル一人だけだった。
◆ sideフィーリア ◆
家族に何も話せないのが辛い。色々聞かれたけど、結局「ブラン爺に口止めされてる」ってことにして、何も話さなかった。
せっかくマルクさんが挨拶に来てくれてるのに、碌に話もできずにご飯だけ食べてとんぼ返りだ。まあ仕方ないが。
ブランドン邸の自室(いつの間にか用意されてた!)に転移して、すぐにブラン爺の執務室へ向かう。
「ただいま。抜けちゃってごめんね。」
「構わん。アリシアの婚約者が来てたんだろう?ゆっくりさせてやれなくて、済まんな。」
「話持ち込んだの私だもん。むしろ巻き込んでゴメンだよ。」
執務室には、ブラン爺とクレイグがいた。
「シドは?」
「……王城に向かってもらった。お前が王族との接触を嫌ってるのはわかっているが、こればかりは譲れん。済まんな。」
「ん……まあ、仕方ないよ。でもまだ確定情報一つもないのにいいの?」
「確定してからでは遅いかもしれんからな。耳に入れておくのは早いほうが良い。」
そりゃそうだよな。この際やむを得ない。
「フィーリア様、グリッド公爵のところへ行ってもらえませんか?先触れは出してあります。」
「あー、国境警備か。わかった……って、まだ言ってなかったの?ブラン爺!」
「あ、いや、この前またちょっとしたことで言い合いになってしまってな……」
何やってんだ、この父子。前までみたいな没交渉よりは全然マシだけど、すーぐ喧嘩すんだから。
「はあ……仕方ないわね。グリッド様に会ってくる。で!モンデール伯爵様への紹介状もぎ取ってくるから、グラン爺は大急ぎでモンデール伯爵様に先触れの手紙書いてすぐに届けて!」
「は?わ、儂がディクソンに手紙を書くのか?」
「当たり前でしょ!私ディクソン伯父様とは面識ないのよ!ブラン爺の孫でしょ!間取り持ってよね!グリッド様と話した後、すぐディクソン伯父様のとこ行くから、手紙は大至急よ!」
くっそ、なんで私が駆けずり回んなくちゃなんないのよ。何がどうなろうと、私の知ったこっちゃ……いや駄目だ、万一のことがあったら、そこに幸せはない。絶対に!全部全部守る!
「フィーリア様、公爵と伯爵に面会なさるのでしたら、お召し替えは……」
あーそうだった。執務用の普段着ワンピースのままだった。でも正直時間が勿体ない。
「……このままでいいわ。伯爵への先触れの手紙に、その旨のお詫びも書いておいてちょうだい。じゃ、行ってくる。」
「お待ちください、せめて騎士の一人なり付けて……」
「いらない、邪魔。馬車の中で精霊獣と話もあるから、御者だけ付けて。ったく、ホントは転移で行きたいところなのに……」
転移ができないならせめて馬だ。だがしかし、いまだ鐙に足が届かない。背が伸びない、悔しい。
早速公爵家に向かおうとドアノブに手を掛けたところで、後ろからクレイグに声を掛けられた。
「フィーリア様、その、本当にバージェガンドは攻めてくるのでしょうか?戦争に……」
珍しく気弱な声だ。クレイグ、戦災孤児だったっけ。
「わからない。そうならないことを祈ってるけど、そうなっても対応できるようにしなきゃならないの。しゃきっとしなさい!男の子でしょ!ブラン爺もよ!」
今度こそ部屋を出た。こんなこと言ったら、前世だったらジェンダーハラスメントだ何だと言われそうだな。
更新日を変更いたしました。
週3回 月・水・金 の更新となります。
お付き合いいただけると幸いです。




