海外事情
◆ sideフィーリア ◆
「フィーリアお嬢様、どうされましたか?なんだか元気がないような……?門のところでも、トビアス様と侍女服の少女が、並んで膝を抱えてましたし……。」
「あー、気にしないで。心配してくれてありがとう、トマス。」
トビー兄とメイチャかあ。ハゲを作った人とハゲをバラした人ね。まあそりゃ落ち込むだろうな。あ、そうだ。
「侍女服の子ね、新しくうちに入った侍女なの。メイチャ、って言ってね、その、私とトマスが拐われた時にもう一人いた女の子なのよ。」
「え!?あの時の!?」
「うん。あの子も何となく事の経緯をわかってるみたいでね、私の侍女になるために勉強してきたんですって。」
「そうですか、あの時の……。」
っと、思い出させちゃったかな?子供にとっちゃ、トラウマもんの恐怖だったもんね。
「ま、それはそれとして、そっちに預けた子たち、どう?修行は順調かな?」
規模を拡大した孤児院から、基礎学習が終わった順に希望職種への修行を斡旋している。
うちの工場を希望する子たちは、守秘契約のいらない軽作業員からスタートだ。そのために、守秘契約必須の作業員とは、仕事内容も作業場所も分けるようにした。頑張り次第では、もっと重要なポジションまで上がれるシステム。
販売・接客を希望する子は、シューベリー直営店の店頭販売員からスタート。本人が希望して能力が認められれば、代理店契約をして行商に出てもらう。こっちの最終到達点は、独立して一国一城の主となること。
それ以外を希望する子は、適宜うちの伝手のあるところへ紹介している。みんな真面目だから、評判は良い。
で、その商人ルートに十名ほど修行に出してたのだが、実は既に二人が差し戻されている。接客トラブルが多数あった上に、年下のトマスに使われるのが我慢ならなかったようだ。
差し戻された二人は、シャハザールのねちっこいお説教の後、大工見習いと石工見習いとして頑張っている。本人たちも接客より性に合ってたみたいで楽しそうに働いている。
残り八人が行商修行してるわけだが、さて。
「順調ですよ。一人はちょっと戦闘力に難ありで、ユグレリア店所属のまま領内の配達や御用聞きをしながら訓練してます。二名はモンユグレ領近辺で行商。三名は王都店を中心に国内のあちこちに出ています。」
「ん?あと二人は?」
「それをちょっとご相談したくて……」
おや?トマスにしては、珍しく歯切れが悪いな。
「実は……彼ら二人は、国外への行商に出たがっているのです。商人としての資質は何も問題ないと思いますが……。」
んあ!?国外!?それちょっと危険過ぎやしないか?
「……具体的にはどこかしら?ユルマリノ公国ならいいけど。もしかして冷戦状態のイグナリニエ王国とか?」
イグナリニエ王国は、北のルヴレフ辺境伯領で国境を接している国だ。二十数年前までサウデリア王国とは小競り合いを繰り返していた。それを鎮静化させ冷戦まで持って行ったのが、ガラリア様のドラグーン隊だ。さすが筋肉ダルマの緑熊。
まあイグナリニエなら辺境伯領通って……
「バージェガンド帝国に行きたいと。」
はあっ!?ありえないでしょ!
「二人共ではないです。ワーニックが、です。移民の子なのですが、バージェガンドに祖母がいるようで……。」
「……ご両親は?」
「バージェガンドで父親が戦没後、祖母は足が不自由だったため、母親が一人でワーニックを連れてサウデリアへ難を逃れましたが、病死しています。」
「……唯一の、肉親なのね……」
それは……会いたいだろうなあ。
「国境近くの街にいたらしいのですが、存命だったとしてもかなり困窮してるでしょう。ワーニックはある程度の貯えもありますし、行商で祖母を援助し、可能であれば連れ帰りたいと。」
「そっか、生存確認もできないんだもんね。でも行商ったって、今のあの国で紙とペンは売れないでしょ。商材は魔珠だけ?」
「いえ、肥料を扱いたいと。」
ん~~~肥料かあ。細々と交易はあるものの、一応政情不安定な敵国だからね。肥料だと背信行動に取られかねないかなあ。
それに肥料はうちじゃなくて公爵家お抱えのユールリエ商会の取り扱い商品だから、そっちのほうでも渋られるかもしれない。
「現状、バージェガンドと取引のある商会はあるの?」
「小さな商会が二つほど。あちらからは穀物酒と青の染料、こちらからは綿花と塩ですね。額が小さいので国の検閲は斟酌されているようです。ただ最近は、酒もほとんど来なくなったようで――」
「ちょっと待った!!」
資料を捲るトマスの動きがピタリと止まる。
「穀物酒?それが入って来ないって?なぜ?」
「いえ、詳しいことはわからないのですが、バージェガンド国内の酒蔵がいくつか潰れ、数が少なく高騰しているようです。それ以上のことはちょっと……」
酒蔵が?潰れた?酒が高騰してるのに?なぜ?
「……ワーニックをこっちに寄越してくれる?バージェガンド行きに関しての話は、後はこっちで引き取るわ。」
「は、はあ、承知しました。」
思考がぐるぐるする。いや待てだめだ、今はトマスとの話を終わらせよう。考えるのはそれからだ。
「国外に出たい、って、もう一人は?」
「ロランです。彼はリナフェビア皇国かメリクアリア王国どちらかの南方に行きたいと言っています。」
「?ほとんど国交ないよね?なんでなの?」
「それが……その、モテたいから、と……」
…………は?
「以前、シドさんに聞いたらしいんです。南方の女性は露出の高い服装を好み、その……性、にも……奔放、だと……」
シぃ~ドぉ~!あの野郎!顔真っ赤にしてたどたどしく報告するトマスが可哀想だろうが!
「いえっ、商売に関してはいたって真面目な奴なんです。鼻が利くし目端が利きます。拾い集めた噂話を分析するのも得意です。何より人好きのする性格で、対人関係でトラブルを起こしたことは一度もありません。むしろトラブルになるところを助けることもあるようで……」
トマス、熱弁だな。てことはかなり優秀なのか。つかそれ、商人って言うより諜報員……まさかな。
「リナフェビアに行くんなら、陸路は無理だよね。海路……キャスラン領から船出てたっけ?」
「定期航路はありません。船を雇うしかないですね。」
「……また厄介な。いい、ロランもこっちに寄越して。」
「はい。ですが二人ともあちこち飛び回っていますので、ちょっと時間はかかるかもしれません。」
「うん、それでいいわ。お願い。」
さて、まずはシドをシバき倒さんとな。健全な青少年にいらんこと吹き込むんじゃねえよ。それから……杞憂に終わってて欲しい。杞憂だと言ってくれ。
兎にも角にも情報集め、だな。ブラン爺に相談して、あとは諜報部の仕事だ。
更新日を変更いたしました。
週3回 月・水・金 の更新となります。
お付き合いいただけると幸いです。




