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番外編7 三人の(元)騎士

◆ sideデイル ◆




「ん~、その情報屋、『暗がりの何ちゃら』だったっけ?シツコいわね。もう七人目じゃないの。」

「『暗がりの蜘蛛』です。八人目です。これまでの七人の内訳は、【ぼこ】【一ぼこ】【二ぼこ】がそれぞれ二人ずつ、【三ぼこ】が一人です。」

「えっ?そこまでやられてて、まだ諦めないの?馬鹿じゃないの?骨折はともかく、目を潰されたら治癒魔法でも元通りにならないのに。」

「ええ、馬鹿なんでしょうね。ヤバい筋の前金を使い込んで、後には引けないようです。救いようがない。」


 呆れたようにフィーリア様が溜息をついた。


「とりあえず八人目のそいつは【三ぼこ】して放逐。『暗がりの何ちゃら』については、私のほうで対処するよ。さすがに()()()が過ぎる。」

「潰すか消すかするのであれば、私がやりますが。」

「暗殺部隊じゃないんだから、物騒なこと言わないの。不可抗力以外は無闇にそういうことしない。」

「は、申し訳ありません。では、八人目はそのように。」


 後日、漏れ聞いた情報によれば、情報屋『暗がりの蜘蛛』は解散したらしい。

 頭領だった男が瀕死で素っ裸に剥かれ、首から「前金使い込んじゃったから頑張ったけど無理~」的なことが書かれた板を下げて、依頼主の元に届けられたそうだ。

 届けられた時に、依頼主にも何らかの()()()()があったようで、以降はどの情報屋にも魔珠を探る依頼は出ていないらしい。


 妄想に近い情景が頭に浮かぶ。


 血まみれで、首からボードを下げた死にかけの大男を、髪を引っ掴んで引き摺るフィーリア様。返り血を浴びたフィーリア様が、爽やかに微笑んでる。

 ああ……見たかった……。


 それにしても『暗がりの蜘蛛』が無くなって良かった。フィーリア様が口に出したくないほどの名前だ。そんな物存在しちゃいけない。

 ギガントベアの足は……六本で良かった。「足は六本まで」だ。






◆ sideケルコム ◆




 ずっと「泣き虫」と馬鹿にされた子供時代だった。


 国境近くの街で生まれ育った私は、国境警備に就く騎士の姿に強い憧れを抱いていた。私だけではない。友達も、男の子はみんな鎧姿の騎士に憧れていたように思う。

 毎日地道に鍛錬を続けた。でも私は、体が大きいわけでも魔法に優れていたわけでもなかった。ならば、と、みんなが嫌がる武具管理や食料備蓄管理を積極的に引き受けるようにした。少しでも「役に立っている」と思われたかった。

 その姿勢が認められたのか、英雄と呼ばれるブランドン閣下の私設騎士団に引き抜かれることになった。ただただ嬉しかった。


 取り立てて活躍する機会もないまま、ある日命じられたフィーリア様の護衛。途中、野盗の襲撃にあったが、共に護衛を務めたデイルやセイクナ、同行してたクレイグ様の助力もあり、簡単に退けることができた。が、まさかその直後、生死の境をさまよう羽目になるなんて……


 巨大な魔物の、圧倒的な暴力。傷を負い、動けなくなった私が見たのは、小さなフィーリア様の背中。

守らなければいけない人に守られるなんて……。情けなさで死ねるなら、私は即死だったろう。


 フィーリア様は美しかった。魔物の圧倒的な暴力を、更に圧倒的な力で粉砕する。小さな体で鎧すら身に纏わず、両手に持ったナイフで巨体を切り裂いていく。

 戦い終えたフィーリア様に治療をしてもらい、休むように言われた。罵倒されてもおかしくはないのに。


 子供の頃、強く逞しい騎士に憧れた。でも、強いだけではなく美しく優しいフィーリア様に、それ以上に憧れた。

 この方にお仕えしたい。お役に立ちたい。




「ですから、通常のウィング紙は三種類まで絞るべきです。無闇に増やせばいいという物ではありません。」

「えー、でもいっぱい種類あったほうが、選ぶほうも楽しくない?」

「それは飾り紙でやればいいことです。通常紙を買う層は、主に仕事と勉強で使うのですよ。三種類もあれば充分です。」

「ううう~、反論できない~。」


 なぜ私が生産管理を、と最初は思った。だが、市場の傾向を見て生産を調整したり、工場の効率化を工夫するのが楽しくてたまらない。こんな自分、知らなかった。


 フィーリア様、私はお役に立てていますか?






◆ sideセイクナ ◆




「あああアイナさまあ!速いですう!」

『何を言ってるのですか。馬が入れない場所だから、仕方なく貴方を乗せているのですよ。文句は言わない。』


 薄暗い森の中、アイナ様の背に乗って進む……のはいいのだが、とにかく速過ぎる!太い枝なんかはちゃんと避けて走ってくれるのだが、細かい枝葉がビシバシ顔や体に打ち付けられる。

 避ける?しがみついているので精一杯。まともに前方を見ることすらできない。ひいいいい!




「セイクナは、魔素溜まりの調査に行ってもらうわ。まあ一人旅だけど、アイナを補佐に付けるから心配しないで。」

「魔素溜まり……ですか。」


 魔素溜まりは知っている。でも調査ってどういうことだ?斥候的な役割ってことか?まさか使いっ走り……とは思いたくない。


 同僚と三人でフィーリア様の元に来た。はいいが、俺はケルコムほど頭は良くないし、デイルほど強くもない。わかってはいるけど、肩書きの付いた二人と差を付けられるのは、正直キツい。

 いや、覚悟を決めて来たんだ。命を救ってくれたフィーリア様に、力の限り恩返しをするって。

 それに嫌われてもいないはず。だってホラ、今日だって俺が贈ったリボンを着けてくれている。

 よーし!頑張るぞー!




 なぜこうなったのか、さっぱりわからない。

 領内の山や森、あちこちを駆けずり回り、ようやく工場の優良候補地となったのはポサ村の外れだった。

 そこで聞かされたのは


 機密?責任者?え?俺、使いっ走りじゃ……


 いじけてた自分が馬鹿みたいだ。フィーリア様はちゃんと俺を見ていてくれた。

 嬉しくてちょっと涙ぐんだら、アイナ様が「良かったな」と言うように、ぽんっと俺の頭に前足を乗せてくれた。


 アイナ様、ありがとうございます。でもそれ急にやられたら、下手したら首が折れます。






◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「こうして三人で飲むのは久しぶりだな。」

「休みがバラバラだからね。」

「でもみんな元気そうで良かった。」


 三人の元騎士たちの久方振りの邂逅。ロクス村の小さな酒場で、デイル、ケルコム、セイクナが杯を傾けていた。


「どうだ?最近の仕事は。」

「生産管理がこんなに楽しいとは思わなかったよ。最近は数字の読みが当たると、事務所でうっかり声が出る。夜は祝杯だ。フィーリア様には感謝だな。」

「俺は責任者なんて荷が重いかな、と思ったけど、工場が順調に回ってるのを見ると嬉しくなるな。孤児院から来た子も良く働いてくれるし。あと最近()()()が少なくなって快適だ。」

「ああ、アイツらは当分来ないよ。フィーリア様が本体を処理したからな。欲を言えば、そういう時は俺も連れて行ってほしいんだが。フィーリア様の闘うお姿が見たい。」

「「相変わらずだな、お前は。」」


 酒を飲み、料理を食べ、どこまでも話は尽きなかった。


 共に騎士としての道を歩んできた。だが今は、フィーリアの元でそれぞれの道を歩いている。


 仕事の内容は違えど、フィーリアの為に力を尽くすことを決めた三人。どこにいても、いつになっても、かけがえのない戦友である。




ちょっとだけ更新をスピードアップいたします。


現在:毎週 火・金 更新

次回から:毎週 月・水・金 更新


これからも読んでいただけると幸いです。

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