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猫の手募集中

◆ sideフィーリア ◆




 一頻り笑ったグリッド様は、シドを室内に入れ、新しいお茶とモンナパンナの新作ケーキを出してくれた。くぅ、わかってんじゃねえか。ウマー。


 新街の発展次第では、三村を公爵領から分割して統治を任せる心積もりもあることを聞いた。まだ内密の話だけどね。

 で、なんでか私がシューベリー商会の商会長リナリア・シューベリーであることもバレてた。あーそれで最初っから子供扱いしてなかったわけか。なかなか侮れんジジイだ。


 結局何が目的なのか良くわからなかった会見は、こうして平和裏に終えることができた。ホント何だったんだろ?

 ま、これで公爵家に直接の伝手できたし、良しとしよう。






王都(こっち)での姉様の補佐役は必要だよ。トビー兄は役に立たないんだし。」

「フィーちゃん、私は大丈夫よ。大体そんなこと言ったって、どこも人は余ってないのでしょう?」

「ぅぐ、それはそうだけど……」


 王都に出店、ダーウィング家のタウンハウスも持つとなれば、アリシア姉様の補佐をする人間は絶対必要だ。事務処理能力もだけど、護衛としての能力もできれば欲しい。が、そんな人材は一人として余ってない。

 最初、シドを付けようとしたが、本人にも姉様にも断られた。シドは私の物なんだってさ。いや、その表現はどうなのよ。

 真剣に、シドかダルトンが分裂してほしい……。


 店もタウンハウスも、色々隠さなきゃならない事情がある以上、迂闊に新人を入れるわけにもいかない。

 う~ん、帰って母様に相談するか。決まるまでは仕方ない、シドを説得して付いていてもらおう。あくまで暫定措置だから、それくらいは呑んでくれるだろう。


 と、いうことで、私一人で自宅へとんぼ返り。母様に相談だ。


「……うってつけの人たちが、いないこともないんだけど……」


 マジで?って言うか、()()()って複数?誰?


「まあ、あちらがどう言うかわからないしね。取り合えず打診してみるわ。それまでフィーは自分のお仕事しててちょうだい。まだ新街の整備もあるんでしょう?」


 はあ、まあ、仕事は山ほどありますな。いっそ私も分裂したいくらい。




 ウルトラCどころの騒ぎじゃなかった。母様が打診して了承してもらったのは、なんと



 パーシーお祖父様とメリーアンお祖母様。



「ちょうど退屈していたのだ。執事役も新鮮だ。やはり片眼鏡(モノクル)とか着けると雰囲気でるか?」

「まあまあまあ、面白そうね。アリシアちゃんと暮らせるのも嬉しいわ。王都で生活なんて初めて。」


 二人とも、言葉の端々にハートマークと音符マークわんさか付けて快諾。うきうきと速攻で王都に向かった。二人が王都に到着次第、入れ替わりでシドがこっちに戻る。

 トビー兄は護衛として王都に残るが、お祖母様がみっちり勉強を見てくれるそうだ。ありがたや。


 いや…まあ…能力的には申し分ないけどさあ。お祖父様は元伯爵だから事務仕事完璧だし、お祖母様はタウンハウスを仕切るくらいはお手の物。お手の物……なんだけど、果たして祖父母まで駆り出していいものだろうか。

 あ、王都内移動用に小さな馬車買って、しっかり改造しておかなくちゃ……。






◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「だからね、人材育成待ったなしなのよ。」


 突然フィーリアにそう言われても、シャハザールには何のことやらさっぱりわからない。

 孤児院の運営は順調で、今では四十人以上の子供たちが、養育と教育を受けている。


「孤児院を拡大したい。で、教育については、孤児たちだけじゃなくて地元の子供たちにも教えてあげて欲しいの。」

「ちょ、ちょっと待ってください、フィーリア様。私一人じゃ今いる子供たちだけで手一杯です。無理ですよ。」


 「様付け」は以前フィーリアに怒られたが、子供たちの手前ということも考慮して、シャハザールはダーウィング家の全員を「様付け」で呼ぶことになった。教会にいた時よりよほど神官らしい、とはクレアの評だ。


「あなた、孤児を集めるのにあちこちの神官に協力してもらってるでしょう?そこから、最低でも二人、引き抜いて来て。」

「そんっ…な、無茶な!」

「あなたの評判、副神官長やってた時より上がってるのよね。賛同する若い神官も多いと聞いたわ。」


 フィーリアは、しっかりと下調べをしていた。


「孤児院は増築して百名受け入れられるようにするわ。新街に学舎を建てるから、そこでは平民の子供たちの教育をする。

 孤児院、学舎それぞれに専属の神官一人ずつ。あなたは双方行き来しながら子供たちと神官の指導をしてもらう。

 もっと引き抜けるようなら、とりあえず受け入れられるのは五名。孤児院三名、学舎二名ね。」


 シャハザールは目を回しかけている。確かに賛同者は多いが、教会の庇護下を出て生活できるかはまた別の話だ。


「そ……それならいっそ教会を建てれば良いのでは……?」

「あら?教会がないと信仰ができないとでも言うのかしら?創世神も精霊も、等しく人の世を見ているのではなくて?誰でも、どこでも、祈ることはできるのよ。」

「……!!」


 単純に、教会という組織の干渉を受けたくないだけのフィーリアだったが、その口車は余りにも滑らかだった。


「……すぐに準備にかかります。人選はお任せください。」

「うん、頼むね。私はひとまず孤児院の増築を優先するわ。実は、もう王都から孤児たちが送られてくる算段は付いているの。」

「王都から?」

「王都のスラム、思いの外酷かったのよ。ちょっとそれを目の当たりにしちゃうと……ねえ。」


 苦笑いをするフィーリアに、シャハザールは感動していた。

 目に余るからと言って、すぐに行動できる人間は少ない。それをやってのけるフィーリアの行動力と財力は、フィーリアが自ら築き上げたものだ。

 たまにフィーリアが「やらぬ善よりやる偽善」と呟いているのを耳にしたことがあるが、それを伝えられたシャハザールの協力者たちは、皆一様に考え込んでいた。己の心の在り方と行動を振り返っていたのだろう。


「フィーリア様、必ずやフィーリア様の御心に添うよう、全身全霊を傾けて努めて参ります。」




 人手不足解消のための手立てが、いつの間にか善意の救済のように受け取られているのはフィーリアにも感じられたが、


「ま、結果として人材育成と孤児の自立になるんなら、どう思われてたって別にいいか。」


と考えるフィーリアは、今回もまた、その腹黒さをシャハザールに悟られることはなかった。




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