真面目が過ぎる
◆ sideフィーリア ◆
「これは……結局私に面会に来い、ってことだよねえ?」
父様の執務室、公爵からの書状を読む私を、父様と母様とダルトンが心配そうに見つめている。
「ブランドン閣下からは何か聞いてないのか?」
「んーまあちょこっとは聞いてるけど、私には直接関係なさそうなんだよね。」
「グリッド伯父様って昔から無口で、私も喋ったことほとんどないのよね……。フィー、パーシーお祖父様に付き添っていただくのはどう?」
「いやあ、私と話したいんだろうし、そこまでしなくてもいいかな。明日の晩ブラン爺にお泊りしてもいいか聞いて、明後日の午後にでも公爵邸に行ってくるよ。早いほうがいいでしょ。」
その場でビービス使って関係各所に連絡。ブラン爺のとこには、公爵邸への先触れもお願いした。
「せめて家から行ったらどうだ?」
粘る父様。
「公爵邸行くんなら馬車もいるし正装だろうし、ブラン爺んとこに山ほどドレスあるからそれ着て行くよ。いらないって言うのにシーズン毎にドレス買い込むんだから。」
「お支度は大丈夫なの?」
「あそこの侍女さんたち、私の支度するの喜ぶんだよね。女の子いないし滅多にない機会だから楽しいみたい。」
「それならいいけど……。あ、せめてシドは連れて行きなさいな。それくらいならいいでしょ。」
なんでそんなに心配するかなあ。そんな怖い人なの?話聞く限り、ただの拗ねガキ(ジジイ?)なんだけど。
心配する両親をよそに、ダルトンから移住・新街関係をまとめた書類を受け取る。さすがダルトン、しごでき。
「じゃ、一度王都に戻って、明日にはブラン爺んとこ行くね。明後日は、午前はグラントさんと打ち合わせして、午後は公爵邸に行ってくる。面会終わったら連絡するから。」
慌ただしく自宅を後にした。
ブランドン邸の侍女さんたちが、寄ってたかってキャッキャと支度を整えてくれる。まあここんとこ疲れが溜まってたから、磨き上げてくれるのは有難いんだけどさ。
ドレスだけは注文付けさせてもらった。だって放っといたらリボンとフリルてんこ盛りのドレスになっちゃうんだもの。午前も午後も仕事なんだっちゅーの。
外に出たら、執事風の格好をしたシドが馬車の用意をして待っていた。
「フィー様、支度できた……なんだ?その髪型。」
「へん?」
「変じゃないけど……構造がさっぱりわからん。俺に同じの求めないでくれよな。」
普段家にいる時は、アリシア姉様七割、マーサ二割、母様一割で私の髪を結ってくれる。旅先とか誰もいないときは、絶対にシドが結うように!と、なぜか姉様から厳命されてるらしい。そのために私は旅先ではハーフツインかポニーテールばかり。だってシドがそれしかできないんだもん。
別に自分で結んだっていいし、正直髪型なんてどうでもいいんだけどなあ。それ言ったら姉様が泣きそうになったことあるんで、言わないけど。
小型の馬車に乗り込み、まずはグラントさんのとこへ。
グラントさん、店には出てなかったが、従業員はみんな私がダーウィング家のお嬢様だと知っているので、三階の事務所にいると教えてくれた。
……書類……の山、だね。グラントさんが見えない。
「グラントさーん、いるー?」
「あああっ!フィーリアお嬢様っ!お待ちください、今……」
ドドド……と音を立てて、書類の山が崩れた。その奥からグラントさんがひょっこり顔を出す。ゾンビみたいな顔色してるんだが。
いったい何の書類かと拾い上げて中を見ると……移住の申請書?え?まさかこれ全部?
「すみません。住民の精査が全然終わらなくて……。」
「精査って……これ全員調べてんの?」
「当然です!工場の作業員はもちろん、開業希望の者でも、お嬢様の作る新しい街に、不穏な輩は一切入れません!」
いや待て、やりすぎだろ。てかあんた一人でできるわけないだろ。グラントさんの忠義を甘く見てたわ。
「シド……」
「は、項目はどうしますか?」
「うん。犯罪歴がある者、裏と通じてる者、明らかな紐付きの者、この三点でいい。それらを除外して。」
「わかりました。ここに呼んでも?」
「うん。グラントさんにはちょっと休んでもらうよ。」
そう言いつつ、グラントさんに睡眠の魔法をかける。床に倒れる寸前でシドが受け止め、隣室の応接室に寝かせてくれた。
ぶっちゃけ睡眠の魔法って状態異常なんだけど、この際やむなし。自然回復するまで、寝ててもらいましょ。
シドが諜報部に連絡を取り、ほどなくして数人の普通の人が現れた。これ実は諜報部の人間。恐ろしいほど個性を消し、誰の記憶にもぼんやりとしか残らない。隠密とか認識阻害とはまた違って、面白いよね。
ちゃちゃっと指示して、未確認分の書類を仕分けてもらう。裏とか犯罪歴ありの人間、ざっと見ただけで判別できちゃってるの凄いな。全部は覚えてないとは言うけど、こんだけ覚えてるだけでも驚愕だわ。
貴族や商会の紐付きまではさすがにわかんないので、残った書類からうちに就職希望の者だけ調べてもらう。内部にさえ入れなきゃ、街に住むのは別に構わない。許容範囲だよ。
普通の人たちが調査のための書類を持って姿を消しても、グラントさんは起きない。
「……ご飯食べに行こっか。」
「その恰好ならちょいとお高いとこがいいな。シェール・ルーシュとかどうだ?」
「あ、いいねえ。子羊食べたい、子羊。」
デスクの上に、グラントさんへの伝言を書き残し、事務所を後にした。むろん、店の従業員には「グラントさん、今ちょっと休んでるから、起こさないようにしてあげて」と伝えておいた。たっぷり寝るが良い。
小洒落たレストランで、ラムチョップの香草焼きを注文する。シドはホーンラビットのシチュー。それも美味しそうね。
そう言えばと高額メニューにも目を通すと、おお、あった。『ビョヌのワイン煮』。入荷時のみとの注釈が付いて、お値段が……マジか!誰が食うんだこんなモン!確かに美味かったけどさあ。……そのうちまた狩ってこよっと。
さて、午後からは公爵様と面会だ。美味しいご飯で英気を養って、拗ねジジイと対決だ!




