初めての王都
◆ sideフィーリア ◆
トマスとの王都出店の打ち合わせが思いの外長引き、うちに泊めることにした。その日の夕食の席で、突然アリシア姉様が言い出した。
「ねえフィーちゃん、王都に行くのは私では駄目かしら?」
「へ?ええっ?姉様が?」
「ええ、フィーちゃんは新街を作るのに忙しいでしょう?トマスもグラントさんも忙しいから、王都に詰めっ放しとはならないでしょうし。どのみち連絡役が必要になるのだから、私が適役ではなくて?ビービスだって他の人に迂闊に使わせるわけにもいかないでしょう。」
いやまあ、いちいちごもっとも。確かに王都店常駐の人選には困っていた。
グラントさんは今のところ公爵領都店にかかりきりだし、トマスはできれば遊撃隊として自由に動けるようにしておきたい。製造関連は新人入れて教育の真っ最中だし、出せる人間は誰もいない。
姉様ならユグレリアに出店した時にも手伝ってもらったし、流れはわかっている。非常に適任なわけだ。
そこまで考えて、気付いた。
ん?あれ?王都、って……
思わず振り向いて後ろに控えていたシドの顔を見る。「男女の機微を俺に聞くな」の顔しとるわ。
渋る父様を母様と二人で説得し(母様も気付いてた)、とりあえずアリシア姉様を王都店の責任者に。
もちろんハナから一人で行かせる気もなかったので、トマスに先行させ物件の仮押さえと宿を取っといてもらう。その後、私・アリシア姉様・シドの三人で王都へ向かい、正式契約その他諸々を済ませるつもり。……だった。
「職人街の調整が無ければ、僕もいくんだけどなあ。」
「……じゃあ、俺が行くよ。アリシア姉様の護衛で。」
留守番をぼやいたアンディ兄様に、トビー兄が言った。いやお前!勉強は?……いやまあ今更か。
こうなったら、行き帰りの馬車と王都での仕事以外の時間、私とアリシア姉様でみっちり勉強詰め込もうかね。
考えたら、王都に入るのって初めてだよなあ。辺境伯領の行き帰りも、結局は王都に寄らなかったし。
シドが御者をして、馬車の中には私とアリシア姉様とトビー兄の三人。姉様と二人のことはよくあるし、トビー兄と二人のことも多いけど、この三人だけで一緒にいるってのは珍しいかもしれない。
父様はもっと護衛を付けたかったみたいなんだけど、アリシア姉様守ることだけ優先したら、私もシドもトビー兄も優秀な護衛だと思うよ。ここに精霊獣加わったら、なんなら王都落とせるんじゃない?しないけど。
今回はアリシア姉様がいるので、早さよりも野営をしないで済むルートで向かうことにした。太い街道通って、あちこちの街に宿泊しながら進む感じ。姉様、長旅初めてだからね。無理はさせられない。
それでも馬車の居住性良くなってて良かった。前のままのサスペンションの馬車だったら、姉様の尻まで割れてしまう。コイルバネ万歳。
「フィーちゃん、王都まではあとどれくらいかかるの?」
「明後日くらいには着くかな。無理すれば今日じゅうには着くこともできるけど、夜の移動は王都近くであっても避けるほうがいいからね。」
「そうなんだ。ごめんね、私が慣れてないから。」
「ううん、私も初めてこんなにあちこち寄れたし、楽しいよ。」
ほのぼのする姉様と私。トビー兄はと言えば、私たちと向かい合わせの席で私が用意した問題集を、うんうん唸りながら解いている。済まんなトビー兄、キミに勉強させるのは父様と母様の厳命なんだ。
のんびりした長旅を終えて、ようやく王都に到着。
長い長い外壁に囲まれた王都、城塞都市スタイルか。てか王都って名前ないんだね。領都と違ってサウデリア王都はここだけだからいいのか。
簡単な入領審査を終えて大門をくぐると、トマスが出迎えてくれた。
「皆様、お待ちしておりました。まずは今日の宿へご案内しますので、そちらでお休みください。」
ビービス、便利この上ないわあ。商会用にユグレリア店に置いてあるのとは別に、トマスにも持たせて正解だった。王都用として、アリシア姉様にも一つ持っててもらってるけどね。
宿に着き、ひとまず姉様には休んでてもらって、私は旅装のままトマスに仮店舗に案内してもらう。トビー兄は姉様の警護でお留守番、シドは付いて来てね。
「へえ、悪くないじゃない。」
案内された物件は、敷地がユグレリア店より一回り大きいくらい。で、階層が四階まである。王都は地価が高いから、けっこう高層建築多いのよね。
中に入ると、割とシンプルな造り。ふむ、シドとトマスしかいないし、いいか。
「アイナ、ちょっと来られる?」
『お呼びですか?――おや?王都……ですね。』
「うん。ここ、うちの新しい店作ろうかと思って。地盤と建物の強度見てくれる?」
『承知。しばしお待ちください。』
アイナの診断の間、トマスと打ち合わせ。
「アイナの結果次第だけど、ここ、良いと思うわ。言ったこと調べておいてくれた?」
「はい。貴族街に近いので治安はかなり良いです。建物の謂れも特に目立ったものはなく、前の持ち主はここをボールルームにしようとして購入したはいいものの、娘三人が立て続けに嫁入りしたためそれどころではなくなり、手放したそうです。」
「ははっ、縁起が良いのか悪いのかわかんねぇな。」
「買った途端にお相手が決まったんだから、縁起良いのよ、きっと。その前は?」
「ドレス職人の工房兼店舗兼住宅でした。こちらは普通に引退し、後を継ぐ者がいなかったため丸ごと売却したようです。かなり個性的なデザインだったようで……」
トマスが苦笑いをする。はは、それで跡継ぎいなかったわけか。なるほど、これはかなりの好物件だ。悪い印象がない。
『フィーリア、念入りに調べましたが、地盤も建物の躯体も問題ありません。』
「地下室増築しても大丈夫そう?」
『はい。ご心配でしたら今作っておきましょうか?』
「そうね、お願い。」
微かな地鳴りと共に、アイナが地下室を作り始める。しばらくかかるかな?よろしくね。
「なんだ、地下も作るのか?」
「うん。倉庫とか色々使えるしね。あったほうが便利でしょ。ってことで、トマス、正式に契約お願いね。内装やなんかはアリシア姉様と相談して進めて。」
「はいっ!お任せください!」
「あ、あと、タウンハウスも見繕ってくれる?しばらくは宿屋でも構わないけど、やっぱり拠点は欲しいわ。私の出入りもあるしね。」
そう、今後私は王都に直接転移魔法で来ることになる。そうすると、人に見られず転移して来れる場所が必要になるのだ。
「かしこまりました。こちらの不動産屋と相談して、候補を見繕っておきます。」
そこまで話が進んだ時、私が着けている腕輪に嵌め込まれた石の一つがぼんやりと光った。着信のお知らせだ。ビービスを取り出す。
「ちょっと待ってね、家からだわ。んと……!」
ビービスのメッセージを読んで、瞬時に頭の中でこの先のスケジュールを組みなおす。
「公爵から許可が下りたわ!本格的に移住開始よっ!
トマス、さっき言ったことと、グラントさんに連絡取って移住希望者をまとめて。あと王都のギルドにも移住要綱公開して構わないわ。
シド、とりあえずこの店の近辺調査お願い。私は一旦家に戻って書状を確認してくるわ。こっちに戻る時は……そうね、今の宿の姉様の部屋に飛ぶから、連泊確定させて、姉様たちにも説明しておいてちょうだい。
あー!アイナにも作業終わったら説明しておいて!じゃっ!」
それだけ一気に言うと、私は自宅へと転移した。




