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王都への道筋

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「そう言えば、ジョシュア殿下を襲ったのって結局誰だったの?聞くの忘れてたけど。」


 いつものように執務室で仕事に追われていたフィーリアが、ふと傍らにいたシドに訊ねた。


「忘れて……違うだろ、興味なかっただけだろ。」

「そうとも言う。で、何者だったの?」

「一応報告は上がってきてるけど……。息抜きに見るか?」


 シドは執務机の上に書類を出し、お茶を淹れる用意をした。


「んー?なにこれ?国内勢力じゃないってこと?」

「ああ、()()()()、な。ヘリオス隊長たち、馬車が落ちた後「弔い合戦だー」って思い込んで、一人も生け捕りにしなかったからな。身に着けてた物調べた限りじゃ、どうもバージェガンド帝国から流れてきたっぽい。」

「モンユグレ領抜けてきたってこと?」

「いや、今は帝国との国境越えはかなり厳しく取り締まってるからな。メセス湖をぐるっと回ってモンデール領も回避して、コックス領から入ったんじゃないかって話だ。」


 モンユグレ領の北側にはメセス湖という大きな湖があり、そこを迂回するとサウデリアに入れるが、当然道はなく、危険な森を抜けて行かなくてはならない。


「……なんか胡散臭い話だね。だいたい何で帝国人が第三王子狙うのさ。視察の情報だってどこから仕入れたんだか。」

「そこら辺は一切不明だ。狙うっつっても暗殺じゃなくて誘拐目的だったみたいだぜ。馬車が落ちた瞬間、目に見えて狼狽えたようだ。」

「……狼狽えた?」

「ま、食い詰めた密入国野郎どもが野盗になって偶然第三王子の馬車を襲った、って結論になりそうだぜ。コックス領は森側の見張りを強化したらしい。」

「ふぅん……ご苦労様なことね。……その強化には、国から補助でも出てるのかしら?なら…………」

「どうした?何か気付いたのか?」

「……ん、ただの妄想。確証ないし気にしないで。」


 フィーリアがこういう言い方をした時は、梃子でも話さない。シドは話題を変えることにした。


「この前のブラン閣下の話はどうするんだ?」

「ブラン爺の話?親子喧嘩のこと?どうもこうも、私は何もしないけど。」

「へっ?だ、だってフィー様が関わってるからクレイグを通して話したんじゃないのか?」

「関わって……ないこともないけど、よく考えてみ。たぶん諜報部門を継ぐのが誰だったとしても、自分以外だったらグリッド様(むすこ)は同じ態度取ってたんじゃない?」

「……あ……そう……かも……」

「父親に認められたい息子と、息子を一人前の男として認めることを怠った父親の、ただの親子喧嘩よ。二人ともいい歳して馬鹿じゃないの。」

「いや、それバッサリ過ぎないか?」

「何にせよ、移住活動の認可が下りるかどうかの結果が出てからね。それ次第では、ある程度は動くけど。」


 公爵に移住募集の認可を求めた書状には、最後に「詳細の確認が必要な場合、移住事業担当者フィーリア・ダーウィングが説明に伺います」と書いておいた。


「返事、まだでしょ?」

「それはそうだけど。」

「なら放置で。私忙しいのよ。」


 他のことならともかくこれは当人同士で解決すべきこと、とフィーリアは一線を引いて考えていた。


(ブラン爺んとこの家庭環境もわかんないのに、私が口出したらもっと拗れるに決まってんじゃん。)


 ブランドンに、一番近く一番冷静なフィーリアであった。






◆ sideフィーリア ◆




「フィーリア、その、返事はしなくてもいいのか?」

「父様しつこい。気になるんなら父様が返事書いてよ。そもそも宛名は父様なんだし。」


 父様が気にしてるのは、ジョシュア殿下からの手紙のことだ。我が家を後にして、コックス領から一通、更に王城に戻ってからまた一通手紙が来ていた。

 どちらも宛先は父様。でも内容は……たぶん私宛てなんだろうな。また訪ねていいか、とか、あの石鹸は素晴らしかった、とか、()()()()()()全開のことを言ってきてる。


「全員多忙につき訪問はご遠慮ください、て送っとけば。だいたいあいつ、勉強と身辺のアレコレで出掛けてる暇なんてないはずじゃないの。てか、そうでなきゃおかしいでしょ。」


 いや、マジで私忙しいのよ。見切り発車で移住予定地にバンバン建物建ててってるし、移住予定者もかなり当たりをつけてる。

 もし公爵から認可が下りなくても、抜け道使えるように調整しながらだから大変だ。


「父様、ここの数字間違ってるわよ。あとは大丈夫だから提出用にまとめとくといいわ。私は新街のほうに顔出しに行くわね。」


 父様の手伝いを終えたところで、ノックの音がした。


「だ…旦那様、トマスさんがフィーリアお嬢様に面会にいらしてます。」


 執事見習いのパッセルが取り次ぎに来た。パッセルはシャハザールが育てた孤児の一人。ダルトンの熱望により、執事見習いとして働いている。

 考えたら、私がやってる事業や商会については、シドを始めグラントさんやトマス、ブラン爺も母様も姉様も手伝ってくれてるけど、父様が今までやってた仕事はダルトンの補佐と今はアンディ兄様か、そのくらいだもんね。

 ここに移住者が増えて新街ができたら、父様の代官としての仕事が回らない。故に、優先すべきはダルトンの弟子である!と判断したのだ。


「トマス?定期連絡には早いわね。なんかあったかな?まあいいや、応接室よね、すぐ行くわ。」


 パッセルはそのまま父様の手伝いに残し、応接室へ向かった。




「フィーリア様!王都です!王都!」


 ……ど、どしたトマス。珍しく興奮して。


「す、すみません、つい。」

「いや、いいけど。それで王都がどうしたの?」

「それが、移住者の選定をしているうちに、噂が王都まで流れたようで、王都からの希望者も多数出てきたんです。その面談や選定の関係から、王都にも拠点というかシューベリー商会の店を出したらどうか、と、ギルドのほうから提案があったんですよ。」


 へー、渋いことで定評がある商業ギルドが、出店の提案ねえ。珍しいこともあるもんだ。


公爵領都(ユグレリア)の商業ギルドは、シューベリー商会のおかげで各支部の中でもかなり発言力を持ってきてますからね、もっとうちにのし上がって欲しいんでしょう。で、王都にある掘り出し物の店舗を紹介してきたんです。」

「……グラントさんとトマスの意見は?」


 王都に店を出すとしても、実際に采配するのは彼らになる。彼らの意見が一番大事だよね。


「父とは意見が一致しています。出店すべきです。いずれは、とは思っていましたが、売り上げも順調ですし、ギルドからの後押しと生産の拡大を見込める今、この機を逃すわけには行きません。」

「そ、じゃあ出店しましょうか。」

「え……?」


 トマスが呆気にとられた顔をする。


「なんて顔してるの。あなたたちの判断を私が疑うわけないでしょう?必要な書類はあとで回してくれれば追認するわ。思うようにおやりなさい。責任は私が持つから。」


 トマスの目に、ぶわっと涙が溢れる。てか泣くな。




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