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男の矜持(笑)

◆ sideフィーリア ◆




「フィー様、クレイグから連絡来てたぜ。時間のある時に顔出して欲しいってさ。」

「クレイグ?ブラン爺じゃなくて?――ん、わかった。今からちょっとジョナ兄に用事あるから、それ終わったら行くって伝えといて。」

「了解。ジョナス様、ってまた新商品か?やっとビービスの開発終わったとこなのに、容赦ねえなあ。」

「馬鹿ね。暇なほうがジョナ兄には辛いのよ。たぶん。」


 一通りの研究を終えたジョナ兄。ちょっと抜け殻気味なので、新たなカンフル剤注入だ。


 ヨデル村を職人街にする。そのためには、今あるペン先とペン軸、鉛筆だけじゃちょっと弱い。そこで新商品投入だ!




「ジョーナーにーいー、新しい研究テーマ持ってきてあげたよー。」


 寝ぼけたような目で顔を上げたジョナ兄。仕様書、というか、細かい構造がわからないので、「こーゆーの作ってぇ」というお願いのお手紙だが、それを渡す。

 トロンとしてたジョナ兄の目が、徐々に光を帯びてくる。


「蓋つきのペン、だね。」

「うん。」

「ペン先が、軸と一体化してる、と。」

「うん。」

「で、インクが軸の中に入っている、と。」

「うん。」


 ジョナ兄が仕様書を見つめたまま、ブツブツと何か呟いてる。


「……軸にインクを……乾燥……密封……毛細管現象でペン先に……いや密封なら空気と交換……」


 さすがジョナ兄。万年筆の基本的な構造は、その考え方でいいはず。てか、空気と交換なんて、ジョナ兄の呟き聞くまで気が付いてなかったよ。

 ついでに、昨夜錬金魔法で作っておいたスクリューキャップをジョナ兄に渡す。この世界、簡単なネジはあったけどスクリューキャップはなかったのよね。


「これ……密閉……インク……!!!」


 わ!ジョナ兄が猛烈に何かを描き出し始めた!

 ふ、ふふ、こんなとこも私とジョナ兄そっくりだね。悪癖と言ってもおかしくないけど、私はちょっと嬉しいな。


 研究室のドアをそっと閉じて、さてと、クレイグのとこ行こうかね。シドは連れてってもいいんだよね?一人で来いとは言ってなかったし、たぶんいいだろう。






 シドと共にブランドン邸へ。っと、クレイグに待ち伏せされちゃった。なんか空気重いし。


「いらっしゃいませ、フィーリア様。旦那様の許可は得ておりますので、温室でお話しましょう。」

「お……おぅ……」


 いやごめん、淑女らしくない返事なのは重々承知してるが、なんとなくクレイグの様子に気圧(けお)されちゃったんだよ。

 大人しくクレイグの後をついて行き、もう既にお茶の用意がされていた温室で、ちんまりと椅子に腰かけた。すかさず紅茶とケーキが出される。まあ食べるけど。公爵領都(ユグレリア)で一番と言われる菓子店モンナパンナのケーキだもの。くっそ、クレイグわかってんな。


 クレイグは私の正面に座ると、俯いたまま一つ息をついた。シドがクレイグの前に紅茶を置く。


「フィーリア様は、今年の誕生日プレゼントに、旦那様の諜報部の一部の指揮権を譲渡されましたよね。」


 あー、やっぱその関係の話か。


 今年、誕生日プレゼントの希望をブラン爺に聞かれた。魔珠の販売拡大を狙っていた私は、国内各地で流通してる魔道具の種類と普及率、それらを制作している工房の情報をおねだりした。

 そしたらなぜか、「儂の諜報部の指揮権を一部くれてやるから、自分で思うように動かしてみろ」ときたもんだ。

 今までも、シドを通して色んな調査をお願いしてきたけど、指揮を執るとなればまた話は変わってくる。


 三騎士がうちに来た時も思ったけど、なーんかブラン爺、ちょいちょい私に宿題出してくるんだよなあ。

 とは言え、基本私は自分の身になることは断らないようにしてる。だって、私の理想のアンタッチャブルはブラン爺だからね。ちょっと王家と近いのはアレだけど。


 その時も、連絡役と引き合わされた後、商業関係に明るい調査員をいくつかのエリアに分けた各地に派遣し、同時に商業ギルドに提出される各商会の販売品リストを探ってもらった。で、それらの情報を元に分析するのは自分でやった。


 まとめた物をブラン爺にも渡したら、びっくりしてたもんなあ。表計算ソフトもプレゼン用ソフトもないのに、カラフルなインク使ってグラフ入れまくったもんな。

 描いてるうちに楽しくなっちゃっただけなんだが。


 おっとと、また思考があちこちに飛んだ。いかん。


「うん。で、それがどうしたの?なんかマズいことでもあった?」

「実は、旦那様は諜報関係をフィーリア様に引き継いでもらいたいと思ってるのです。」

「なっ!」


 はあ?マジか!いや、いずれ自分でもそれに類する組織を作ろうとは思ってたよ。でもそれはあくまでもマーケティング中心。それ以外だとしても、商売敵探るくらいだわ。

 ブラン爺の諜報部って、マジじゃん。お貴族様のアレコレとか他国の王宮のアレコレとか、裏組織の連中のアレコレとか。

 商会の経営じゃなくて、国家の経営に必要な情報集めてるとこじゃん!


「……クレイグ、お前勝手にフィー様に話していいと――」

「旦那様の許可はいただきました。むしろ、私から話して欲しいと言われたのです。」

「は?なんでだよ?」

「お前がここを出てフィーリア様に付いてから、こちらでも色々とあったのですよ。」


 ここを出て……二年前の商会設立の時か。ん?二年前?ブラン爺に後見になってもらって、それで息子と喧嘩……してなかったっけ?


「フィーリア様、旦那様はフィーリア様の後見に付いた時から、フィーリア様を跡継ぎに、とお考えだったのです。」


 んんん、待て待て、そんじゃ息子との喧嘩ってもしかして……


「それを察したグリッド様…現モンユグレ公爵が、猛烈に旦那様に反発なさって、そこから絶縁されているのです。」


 なーんてこったい!モンユグレ家のお家騒動っぽいモンに、思いっきり巻き込まれてるやないかーい!


 …………ん?


 いや?待てよ?家督は普通に現公爵が継いでないか?んじゃ今言ってる『跡継ぎ』ってのは、諜報部門のことだけだよな?

 そりゃ確かに重要な機関だし、派閥の長にとっては喉から手が出るほど欲しいだろうけど……。

 それで絶縁て、なんか他にも理由ありそうなんだが。


「なんでブラン爺は、わざわざクレイグから話させたの?」

「それは……その、やはり家の恥ですし……」

「だからってこんな大事な話、ブラン爺からするべきでしょ。」

「……それは……」

「フィー様、勘弁してやれよ。」


 いや、だって、()()()ないじゃん。


「息子に反抗されて仲違(なかたが)いしてるなんて、親父にとっちゃカッコ悪いことなんだろ。」

「んんん?」

「フィー様にカッコ悪いとこ見られたくないんだよ。男のプライドってヤツだ。察してやれよ。」


 く……く……くだらねえええ!!

 超絶どーでもいいわ!




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