番外編1 大切な妹
◆ sideトビアス ◆
「なぜお前はそう乱暴なのだ。力が強いのは悪いことではない。だが、その力をきちんと制御できなければ、それは魔物と一緒だ。少し考えろ。」
……魔物と一緒……。父様の言ってることは正しい。でも俺だってフィーに怪我させたかったわけじゃないんだ……。
五歳の時に妹が生まれた。小っちゃくてやわこくて、最初は怖くて触れなかった。でも、恐る恐る差し出した指をギュッと握られたときに思ったんだ。
俺はフィーリアを一生守る。
でも、フィーの一歳の誕生日に、失敗した。手を伸ばしたけど間に合わず、フィーはブランコから落ちた。
幸い、フィーには大きな怪我はなかったけど、俺は両親から、フィーへの接近禁止を言い渡されてしまった。
どうして俺はこうなんだろう。フィーを守りたくて、フィーに頼りにしてほしくて、まだ素振りだけだけど剣の練習も始めたのに。
俺は男だから、姉様みたいなお世話はできない。兄様は、フィーを膝に乗せて本を読み聞かせてるけど、本は……正直苦手だ。
双子の弟のジョナスが、そんなにフィーと仲良くないのがまだ救いかな。あいつはいつも「壊しちゃいそうで怖い」って言ってたからな。そうそう怪我なんかするもんじゃないのにな。まあ、ブランコの時はちょっと焦ったけど。
家族会議で、フィーに対する図書室開放が決まった。ジョナスがこっそり連れてって、それがバレたのに、ジョナスは怒られなかった。
何でだよ。あいつ、いつの間にそんなにフィーと仲良くなったんだよ。俺なんかその後すぐに、接近禁止が解かれて喜んで高い高いしたら、また怒られたのに。
「なあ、お前なんで……いつからあんなにフィーと仲良くなったんだ?壊しそうだからいやだ、って、あんまり構ってなかったじゃないか。」
寝る前に、ジョナスに聞いてみた。だってそうだろう、今までは俺のほうがフィーと仲良しだったんだ。
「……なんだ?焼き餅やいてるの?」
「そっ、そんなんじゃないよ!でもお前……フィーも……だって……」
しまった。何が言いたいのか自分でもわからない。くそ、またジョナスに馬鹿にされる。だいたいコイツ、いつも本ばっかり読んで、フィーと遊んでやったりしてなかったじゃないか。
「……僕は、なんて言うか、今のフィーリアに必要なだけだよ。僕が図書室開放されるまでのことは覚えてるだろ?」
「あー……毎日暴れてたよな。本読みたくて。」
「うん。その気持ちを上手く言語化…わかるように伝えられなくて、自分でももどかしくてイライラしてた。たぶん今のフィーリアがそれだったんだと思う。」
「お前が見抜いたってことか?」
「いや、あの頃の僕より、フィーリアははるかにまともだよ。伝えるための努力を最大限にした。そして伝える相手として僕を選んだんだ。なぜかはわからないけど、結果的に一番効果的な相手を選んだと思うね。」
「それは……そうかもな。きっと俺じゃあわかってやれなかったかも。」
面白くはないが、コイツの言ってることがホントなら、ジョナスを選んだのは当たりだろう。
コイツが暴れてた時も、俺は何もわかってやれなかった。双子だけど、一応俺が兄貴なのにな。
「フィーリアは賢いからね。きっと「コレをお願いするならこの人」みたいに判断してるんだと思う。僕はフィーリアにおやつやご飯ををねだられたこともないし、お膝抱っこをねだられたこともないよ。僕がねだられるのは『新しい本』だけだ。」
「そんな、それじゃあ、俺はフィーに何をしてあげたら喜んでくれるんだ?」
俺がフィーにしてあげられることなんて、何もないじゃないか。
「……いくら好きでも、本ばかり読んでちゃ駄目だと思うよ。まだ体のできてない、よちよち歩きだからね。散歩とか、歩く練習に付き合ってやればいいんじゃない?」
「歩く練習、ったって、アイツ足遅いから……」
フィーに合わせて歩くと、遅くてついイライラしちゃうんだよな。
「わかるけど、手を引っ張ったりしちゃ駄目だよ。そうだな……トビアスの訓練も兼ねて、あひる歩きとか逆立ち歩きとかしたらどうだい?あとは、でんぐり返り教えてあげたりとか。」
「っ!お前やっぱ頭良いな!それやってみる!」
ジョナスに話してみて良かった。あひる歩きとか逆立ちなら、ちょうどフィーと競争できそうな速さだ。でんぐり返しも得意だし、後ろでんぐりも教えてやってもいい。
よし!明日から昼食の後にでも誘ってみよう!
……また怒られた……。
まさか、逆立ちで競争してて、フィーのほうに倒れるとは思わなかったんだ。巻き込んで怪我させちゃうなんて、やっぱり俺は…………
「とぉにぃ、また、やぉぅにぇ。」
肘とほっぺに絆創膏を貼ったフィーに、にっか~と笑ってそう言われた。とぉにぃ、って俺か?やおーにぇ、ってなんだ?
「フィーもこう言ってるし、今度からは気を付けて遊んでやってね。」
こう言ってる?母様にはわかるの?
「フィーはね、「また、やろうね」って言ってるのよ。楽しかったみたいね。」
まっ、まかせとけ!いつでも競争してやるぞ!兄ちゃんとたくさん遊ぼうな!