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守りたいもの

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 ブランドンとの会談を終えたフィーリアは、すぐにそのままグラントのところへ向かい、商業ギルド経由で移住者を募集できるように手筈を整えた。

 取って返すように自宅へ戻り、イヴァンに時間の都合をつけてもらう。


「モンユグレ公爵に手紙を書いて欲しいのだけど……」

「また随分といきなりだな。要件はなんだ?」

「これの許可が欲しい。」


 フィーリアはシドの持っていた『移住計画書』をイヴァンに見せる。


「こっ…れは、ほとんど新規開拓じゃないのか?」

「んーまあ、そうとも言う。」


 『移住計画書』には、四百名以上の移住者を募り、ここロクス村とポサ村の中間地点に新たな街を建設する計画が書かれてあった。

 募集要員は、各工場の作業員はもちろん、彼らを支える食堂や雑貨屋や酒場にまで及び、風呂屋はフィーリアの強い希望だ。


 住居や店舗は予めある程度の建物を用意しておき、格安の家賃でそこに入ってもらう。もちろん希望があれば、土地だけ貸与して自分で新築することも可能だ。

 製紙工場や魔珠工場への就職希望者には、専用の宿舎――寮的なものを与えそこに住んでもらい、ロクス村とポサ村にそれぞれ通勤用の連絡馬車を用意する。

 ポサ村―新街―ロクス村―ヨデル村の四地区を行き来する定期馬車も走らせるつもりだ。


「気持ち的には、新しい街ってよりも、ロクスとポサを一つにまとめるための街って感じかな。どっちにもかなり大きな工場があるし、今みたいに工場の敷地内に宿舎って、なんか強制労働みたいで気分悪い。」

「まっ待て待て、ロクスとポサをまとめるのはいいが、それではヨデルが置いてけぼりになるんじゃないか?」

「あー、それも考えてある。計画書の、もうちょっとあと…あ、その次に、ヨデル村の計画も載ってるよ。」


 イヴァンがバサバサと書類のページを捲る。


「……職人村?」

「うん。今委託して分業してもらってるペン職人を一つにまとめて、ヨデル村に新しい工場を建てる。

 ペン先は、金属比率とか変えて作ってもらってるせいか、工房ごとにお得意さんができてるみたいなの。だから、特色はそのままで委託製造のままヨデル村に移ってもらう。

 ペン軸は、今は量販品しか残してないから、新たに作りたいって工房が出たらそこは自由にやってもらおうかと。軸は守秘義務ないし。」


 書類とフィーリアを交互に見ていたイヴァンが、大きく息をつく。


「でね、ここまで大掛かりになっちゃうと、下手したら「代官の立場を利用して村を私物化してる」とか思われかねないでしょ?それを避けるために、公爵から開発の許可をもらいたいのよ。そうすれば、一般の商業施設は村の発展、ってことになるし、うちで建てる工場については、公爵に地代と税金を普通に納めれば問題ないし。」

「はあ……そこまで抜け道を考えてあるということか……。」


 イヴァンはバリバリと髪を搔きむしり、フィーリアをちらりと見てきた。


「なあ、フィーリア。お前、何をそんなに焦ってるんだ?いや、恐れてるのか……?」






◆ sideフィーリア ◆




 ぎくっ!父様ってポンコツのくせに、なぜか時々鋭いのよね。いや、狩人なんだから観察眼が鋭いってことか。


「焦って……るのかも。いや、第三王子とか、いきなり絡んできたじゃない。そんな人が出張(でば)って来るとなると、それに対抗するためにシューベリー商会はもちろん、ダーウィング家としてもなるべくしっかりと立場を確立しておきたいの。

 公爵の代官を務めて領地を発展させたとなれば、公爵様の援護も期待できるし、色々と他の人たちへの牽制にもなる……と思う……んだけど……」


 ぅう……父様がすんげえ見てくる。だってだって、言えないじゃないのよ。フラグを回避したい、なんて。

 王子だの側室だの、『()()()』のフラグになりそうな言葉が、ここに来てポンポン出てくるんだもの。やっと体も言葉もまともに使えるようになって、さあこれから()付けるぞ!って時にこれだもん。


 今回の第三王子の件は、本人もお付きもウルトラ馬鹿だったからまだあしらえたけど、もしもっと頭が切れて陰険・陰湿な奴が出てきてたら……勝てない。まだ。

 力押しで自分が死なないことは出来るかもしれない。でも私の目標は、家族や大事な人たちも守って、みんなで幸せに生きることなんだ。だから……


「父様、この前王子が来た時、みんな私を守ってくれようとして嬉しかった。同じようにね、私もみんなを守りたいの。そのために、力――物理だったりお金だったり人脈だったり、それが必要だと思う。……そんな風に思うの、変かな?」


 あざといとはわかってる。でもチビだから仕方ないじゃん、上目遣いになったところで。


「……お前の気持ちはわかった。この前も思ったが、お前の言う守り方は、正直俺には全くできん。だが、お前がそうしたいなら、父親としてできる限り協力しよう。ただし!」


 父様がそこで一度言葉を区切る。


「一人で勝手に突っ走るな。ブランドン閣下か、母様かダルトンに絶対相談しろ。とりあえず、この計画書はクレアにも見せて、より効果的な手紙を公爵様に送ることにする。」


 ん~、父様、相談相手に自分を列挙しないあたり、自分をわかってるよね。しかもその順番、おっかない順だよね。なんて可愛くて頼もしい熊なんだろ。父様大好き。




 自分の執務室に戻ると、シドがなんか変な顔をしてる。


「なに?」

「あー、いや……フィー様さあ、さっきイヴァン様にああ言ってたけど、な~んかそれだけじゃない気がして。まだ何か隠してない?」


 おま!エスパーか!


「……隠してないよ。てか言わないんだから察しろ。」

「俺、まだそんなに信用ないか?」


 へ?え?なにコイツ、そんなこと気にしてたの?え?もしかして拗ねてるの?


「何言ってんの。信用してなきゃこんなにずっと一緒にいないでしょうが。なによあんた、ブラン爺に付いてた時からパンツの色まで知ってなきゃ気が済まなかったわけ?」

「いや、ブラン閣下のパンツもフィー様のパンツも興味ねえ。」


 知っとるわ!ただの例えでしょーが!


「――ま、いいか。あんたのことだ、必要になりゃ教えてくれるんだろ?」

「そうね。んで無茶振りしてこき使うわね。」

「ぅひ。手加減してくれよ。」


 馬鹿だなあ。私の「守りたいもの」の中に、アンタだって入ってるんだよ、シド。




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