酔っぱらいと変態と
◆ sideフィーリア ◆
ダーウィング家の屋敷をいくら建て替えたとは言え、十五名の騎士を宿泊させるだけのスペースはない。製紙工場の従業員用の宿舎に空きはあるけど、工場の敷地内だし、さすがに部外者泊めるのはなあ。というわけで、護衛隊の騎士さんたちには野営をお願いした。
前にブラン爺一行が来た時も思ったけど、マジで迎賓館的なのを建てたほうが良いかもしれない。のか?いや、稼働率低すぎるわ。大人しく野営しといてもらいましょ。
屋敷のほうで食事と寝泊まりするのは、ジョシュア殿下とヘリオス隊長、それにマルクさんと、急遽侍従代わりを命じられた騎士のエンリコさん。
あら?エンリコさんの鎧、随分と雑な補修跡が……あ、この人腕半分持ってかれた人だわ。この人、私のことあの時の子だって知らないのよね。でもなんかチラチラ見てくる。
なんだおい、もしやロリコンか?
うちにしては精一杯のおもてなし料理を用意し、食事をしてもらう。見た目であまり期待してなかった様子のジョシュア殿下、いざ食べてみてびっくりしてた。結構な勢いで完食。
ふっ、うちのマーサを舐めるなよ。
食事の後はサロンへ……と思ったら、ジョシュア殿下は疲れたからすぐ寝るってさ。それもそうか。
侍従役のエンリコさんも付き添って部屋へ行き、そのまま護衛番。お疲れ様です。
結局サロンには、父様とヘリオス隊長とマルクさんが向かった。酒飲むんだろうし、世話役はダルトンかな。
「フィー様、イヴァン様がサロンに来いってさ。」
「えー、酔っぱらいの相手なんかしたくないよー。」
「俺も行くからそんなのさせねえよ。いいから行けって。たぶん例の森の一件だぞ。」
あ、そ言えばそんなんもあったっけ。片付けること多すぎて忘れてた。ヘリオス隊長とマルクさんならその件だね。
サロンに入ると……ちょっと!なにしてんの!
何とヘリオス隊長とマルクさんに、鎧着込んだまま片膝ついて右手を地に、騎士にとって最大限の礼で出迎えられた。食事終わってまた鎧着たってこと?って、あんたらいつからその体勢取ってたわけ?やだーこわーい。
「フィーリア嬢、ジョシュア殿下の馬車の一件では大変世話になった。改めて感謝申し上げる。」
二人とも、頭を垂れて身動き一つしない。わー、ホントに最大限の礼を尽くしてくれてんだー。
グラントさんとトマスの時も思ったけど、こっちの人、悪人以外は基本的に重真面目だよなあ。私としちゃあ、「やー助かったわー、ありがとねー」くらいの軽さでも別にいいのになあ。
「あのー、頭上げてもらえる?正直、こういう重くる…堅苦しいの苦手なんで、普通に話してくれると助かるな。」
にへらと笑って言うと、ようやく頭を上げてくれた。父様が二人に椅子を勧めて、シドが飲み物を用意する。なんだ、ダルトンいなかったんかい。あ、私りんごジュースね。
「あのぉ、フィーリア様、あの時落ちる馬車を押し上げてくれたのは、フィーリア様の魔法なのですよね?やはり風魔法ですか?」
酒を一舐めして落ち着いたらしいマルクさんが聞いてきた。
「うん。でも普段風の魔法ってあんまり使わないから、下手くそなんだよね。あの時は必死だったわ。」
「あ、馬車少し回ってましたもんね。」
なんだてめえ、イジるとは随分余裕じゃねえか。まあ確かにローリングさせちゃったけども。しかも最後ちょっと墜落させちゃったけども。それはゴメンだけども。
「そう言えば、あの糸は何だったのだ?触れただけで鎧を切り裂いていたが。」
「切り裂いた?フィーリアお前、人に怪我させたのか?」
「あ、いや、動くなと言われたのに、部下が勝手に動いてしまっただけだ。怪我はすぐにフィーリア嬢が治してくれた。かえって手間をかけたようで申し訳ない。」
「んー、あの糸は別にナニってこともない、かな。糸状にすればああなるし、塊にすれば、従者の二人を押さえつけたやつになるし。単に魔力を高圧力で形にしただけだよ。」
「あの時の圧し掛かるようなやつですね!あれは実に強力で面白い!あれが魔力の圧なのですか。無傷で制圧するには持って来いですね。」
「む?お前あれを体験したのか?」
「あーいや、煩かったから最初ちょっとだけね。あん時はゴメンね。」
私の力に興味津々なのか、ヘリオス隊長とマルクさんに質問攻めにされちゃった。まあ、守秘契約結んであるし、隠さなくても問題なし。
父様は、基本、私が褒められるのは嬉しいので、ニコニコしながらやり取りを眺めている。
てか、コイツら結構酒進んでないか?なんかご機嫌になってきてるぞ。
「イヴァン様、フィー様はそろそろ……」
「ん?うん、そうだな。フィーリア、部屋に戻っていいぞ。今日は良くやった。ありがとうな。」
父様に頭をぐりぐりと撫でられる。力強いってば、この酔っぱらいめー。嬉しいけどね、へへ。
「もうちょっと早めが良かったか?」
「んにゃあ、ちょうど良かったんじゃない?私も楽しかったし。でも、ま、だいぶん飲んでたからね、これ以上はつきあえないわ。」
シドと自室へ向かおうとすると、人影が見えた。あれ、えーと、エンリコさんだっけ。どうしたの?
「不躾に申し訳ありません。あの、森で自分の腕を治療していただいたのは……あの少女はフィーリア様ですよね?」
ぬ!なんだコイツ?当てずっぽうでもなさそうだ。認識阻害を見破ってたってこと?いや、それにしては最初に顔見たときにはノーリアクションだったしなあ。
「あ、いえ、誰にも話してはいませんし、隊長に報告する気もありません。あの時はありがとうございました。」
「……なんで私だと思ったの?」
「その、実は自分、人の魔力の色が見えるのです。証明のしようもないので、誰にも言ったことがないのですが……」
はああ?それ人に言っちゃ駄目なやつじゃん!言うなればレアスキルってことでしょ?
「っちょっ!なんでそんなこと私に!」
「いえ、自分が秘密を守ることの証にならないかと思いまして。」
「いやいやいや、ならそもそも話しかけなきゃいいじゃん。なに?どうしたいの?私にどうしてほしいの?」
やべ。ちょっと混乱してるぞ。
「いや、あの、助けていただいたお礼というわけではないのですが、もしこの先自分がフィーリア様のお力になれることがあれば、使っていただきたいのです。」
…………はあ?
「自分はまだ騎士になりたてで、何の力もありませんが、もしそれでもお役に立てることがあれば、いつでも自分をお使いください。」
…………はあ?
「一介の騎士でしかありませんが、御用の際は声をおかけくだされば、飛んで参ります。」
「えーと、エンリコさん、だっけ。フィー様への礼にしちゃ随分と入れ込んでないか?自分の秘密まで話して。いったいなんだってんだ?」
まさかホントにロリじゃあるまいな。おまわりさん、こいつです。
「それは……」
それは?
「フィーリア様の……」
私の?
「魔力の色があまりにも美しすぎて……」
顔赤らめてんじゃねえええ!ロリじゃないけど変態かあああ!




