断罪
◆ sideフィーリア ◆
「国家……反逆罪……?」
ジョシュア殿下が、私の言葉を聞いて唖然としている。
「そう、国家反逆罪。サウデリア王国法にね、明記されてんのよ。『側室を持てるのは王と王太子のみ』って。」
まだジョシュア殿下はピンと来てないようだ。
「ただの愛妾ならともかく、王と王太子しか持てないはずの側室を、あなたは持とうとしてた。つまり、王あるいは王太子に成り替わろうとしてる証明になっちゃうの。それで反逆罪。」
「そんなっ!私はそんな気などないっ!」
「二歳や三歳の子が「母様をお嫁さんにする~」って言うのとはわけが違うのよ。それが許されるのは継承権を与えられる前の幼児だけなの。あなたはもう十歳だし継承権もある。視察なんかの公務もしている。継承権を持った王族として扱われる以上、その言動が法に照らし合わせられるのは当然でしょう?」
「そんな……そんなこと……知らない……」
ジョシュア殿下ががっくりと肩を落とす。
「どんな刑を……科せられるのだ……?」
「王位継承権を持った者であればそれを剝奪され、更に財産没収の上王籍からも貴族籍からも除籍されるわね。つまり、何の後ろ盾もない身一つの平民に落とされるということ。ちなみに継承権のないただの王族の係累であれば、賜死…毒杯を賜っての死刑ね。それ以外は斬首の後首が晒されるんだったかな。」
「平民に……」
考え込むジョシュア殿下。ヘリオス隊長も護衛騎士も、何も言葉をかけられないでいる。
彼らに現状を打開するのは無理だろうな。だって、近過ぎて気付かなかったんだから。
「ジョシュア殿下、なぜ王国法を知らないの?」
「え……だって習ってないから……」
「うん、そこがまずおかしいよね。じゃあ、側室が持てるって誰から聞いたの?」
「それは……」
ジョシュア殿下が這いつくばる従者ズを見る。
「この二人?さっきは側近だなんて適当なこと言ってたけど、側近て王侯議会の承認がないと名乗れないよね。ただの侍従でデリルタス子爵家の三男コーベイと、ただの侍女でメルカーラ伯爵家の四女モアナね。ちなみにこの二人、デキてるわよ。」
「なぜ侍女の素性まで知っているのだ?」
ヘリオス隊長が、恐ろしい物でも見るような目で聞いてきた。なんだよ、失礼なやっちゃな。
「調べりゃ誰でもわかるようなことで、いちいち驚かないでよ。それでジョシュア殿下、この二人は他にどんなことを教えてくれた?特に……そうね、あなたの肩書きとか権限に関わるようなことで。」
「他に……気に入った物があれば、いつでも徴収して自分の物にできるとか……王宮の人事は私が好きに決められるとか……将来は私がサウデリアの王になる、と、か……あ…れ……?」
「ん~?なんか気付いたかな?」
へー、自分で違和感に気付いたか。ヘリオス隊長と護衛騎士が、ジョシュア殿下の話した内容に戦慄いている。
「フィーリア嬢、これはいったい……?」
ヘリオス隊長の声が震えている。
「あなたたちは、近過ぎて気付けなかったんだよ。この二人がジョシュア殿下を洗脳して操ってることに。」
そう、幼児期からのマインドコントロールだ。自分たちだけが味方と思い込ませて、人事や実家の利になるよう優遇させてきた。
王族なんてただでさえ接する人間が少ないから、一度信じさせればあとは楽だったろうな。
「乳母が頻繁に入れ替わったのも、家庭教師が何人も替わって挙句の果てにこの二人が教師代わりになったのも、他の従者を入れないで無言が基本の騎士だけを側に置いたのも、この二人が仕組んだんだろうね。表向きは全部殿下の我儘、ってことにしてさ。
だからジョシュア殿下は、この歳になっても王国法すら知らずにいる。教えたら操れなくなっちゃうからね。」
あ、誰も何も言えなくなっちゃった。騎士ズはともかく、うちの人間にしてみたら、子供を使ってそんな外道なことしてたなんて、許せないだろうな。うちみんな愛情深いからね。
「まあ、この二人をちゃんと取り調べれば、反逆罪だけじゃなくって、官名詐称、窃盗、横領、収賄に不当な利益供与、色んな罪状が出てくるんじゃない?」
ヘリオス隊長の顔色が、青褪めたものから徐々に赤黒く変化していく。あーこりゃかなり怒ってるね。気付かなかった自分も許せないタイプだな。
「とりあえず、この二人拘束したら?あなた、ガンダルソン侯爵家の次男でしょ?ジョシュア殿下を除けば、この中で一番肩書きも格も上なんだから、あなたが命令しないと始まらないわよ。」
ハッとしたヘリオス隊長が、慌てて護衛騎士に命じて捕縛用の騎士を呼びに行かせる。
さあて、こっからどう話を進めようかな。
バタバタと慌ただしく騎士が出入りし、従者ズは連れて行かれた。ずっと魔力塊で圧し潰されてたから、ぐったりしてたけどね。
あ、こらトビー兄、どさくさに紛れて覗いてんじゃないわよ。しっしっ。上に戻んなさい。
余計な荷物が運び出されて、応接室の中をまた沈黙が占める。こういう空気、苦手だなあ。
「えーと、次の話してもいいかしら?」
わー、ジョシュア殿下と騎士ズの顔がどんよりしてる。まあそりゃそうか、第三王子の去就に関わる一大事だもんなあ。
シドに合図すると、次なる書類を渡してくれた。それを三枚テーブルの上に出す。
「これは……?」
「守秘契約の書類。腹を割って話したいと思ってね。悪いようにはしないわ。」
三人がジッと書類を見つめる。
内容は、私の個人的な能力に関することと、『機密』と言われた事柄に関して守秘義務が発生する、というもの。もちろん他の守秘契約と同じように魔法契約になるから、違反すれば相応のペナルティーがあるし、無理矢理解除しようとするとそれこそ死に近い反動が来る。
「先に話してから……でもいいかもね。その後で、信用してくれるなら署名するのでもいいよ。」
「それだと、話だけ聞いて署名しないということも可能になるのではないか?」
ヘリオス隊長が、至極真っ当なことを聞いてくる。
「ん、大丈夫。そうなったら、完全なる敵対行動と見なして、死んだほうがマシと思えるくらいの報復をするから。隠し玉、たーっくさん持ってるから余裕。」
にっこり笑うと、三人が身震いをした。いらんちょっかい出されないようにしたいだけよー。
あれ?今気付いたんだけど、コレって私思いっきり悪役みたいじゃない?
思わず家族の顔を見ると、シド以外はみんな満足気。あーコレ、上の階でもみんな同じ顔してそうだなー。アリシア姉様あたり「とことんやっておやり!」とでも言い出しそうだ。
「……ダーウィングの気質、おっかねえ……」
シドが呟くのが聞こえた。




