対 決
◆ sideフィーリア ◆
くっそ偉そうな馬車だわね。ん?御者が絆創膏だらけ。てことは、王都から連れてきた御者を負傷後もそのまま使ってるってことか。
護衛隊も森の時と同じ面子。一人覚えがないけど、御者に付き添ってたって奴かな。護衛騎士くんは見えないからまた馬車の中かな。
コックス侯爵家、あるいはトステル商会の関係者が来ていなければ、そのほうが都合が良い。
まあ表向きは視察だし、ここに奴らを同行させるのも変な話だから、たぶん連れてきてはいないだろうけどね。
門を抜け、止まった馬車から降りてきたのは、森で助けたのと同じ面子だった。まあ予想はしてたけど。
「こちら、サウデリア王国第三王子ジョシュア殿下である。挨拶を許す。」
侍従、偉そうだな。お前は偉くも何ともないんだがな。
「モンユグレ公爵領、ロクス・ヨデル・ポサ三村の領主代官を務めておりますイヴァン・ダーウィング男爵です。ようこそおいでくださいました。」
「私はジョシュア殿下の側近コーベイ・デリルタス。こちらは殿下の護衛隊を率いている第二騎士団第七分隊隊長ヘリオス・ガンダルソンだ。」
ほう、侍従ではなく側近とな。こりゃ面白いことを聞いた。
あ、後ろに控えていた護衛騎士が、私の顔に気が付いた。目が真ん丸だ。さ、父様、家族の紹介よろしくね。
「家族を紹介させていただきます。こちらが妻のクレア、嫡子のアンディ、長女のアリシア、次男三男のトビアスとジョナス、そして……」
ここで間を取る父様。いいねえ。
「末娘のフィーリアです。」
一歩前に出てカーテシー。ゆっくり顔を上げると、ジョシュア殿下と従者ズ、護衛騎士が、私から目を離せないでいる。ごめんねー、エルフでも妖精でもなくて。
「なっおい!お前!あの時の――」
「まずは応接室へご案内しますわ。長旅でお疲れになったでしょう。お茶をお淹れしますね。」
あわあわする侍従の言葉をぶった切る母様。ナイスなタイミングです。はいはい、移動移動。
お、護衛騎士が隊長に何やら耳打ちしてる。うん、これで会談に同席できるのは確定かな。こっちから話を振るまでもなく、ちゃんと認識してくれたようだ。
応接室には予定通り、両親とアンディ兄様、私、シドとダルトンで入れた。向こうはジョシュア殿下と従者ズ、隊長と護衛騎士だ。
てか、ジョシュア殿下と隊長が座るのはいいよ。侍女と護衛騎士はソファーの後ろで立ってんのに、なんで侍従が座ってんだよ。側近て名乗ったからか?にしたっておかしいだろう。
「さて、ジョシュア殿下の突然のお越し、大変驚きましたが、こんな小さな村にいったいどうしたことでしょうか。」
父様がツラッと尋ねる。まずここで相手がどう答えるかだね。
「殿下は回りくどいのがお嫌いでなので、単刀直入に言う。そちらで製造しているウィング紙の製法を献上せよ。」
は?この馬鹿侍従、今何つった?
想定問答集の中でもあまりに頭悪くてまずしないであろう発言を、コイツいきなりしやがった。みんなで「まさかね~」とか言ってたのに、心底馬鹿だわ。
「お断りします。」
父様が落ち着いて断る。ジョシュア殿下と侍従ズがびっくりした顔してるんだが、え?なに?コイツらホントにそこまで馬鹿なの?
隊長と護衛騎士は、あ~あ、って顔してるわ。それが普通の反応だよねえ。だってコイツら言ってることって、ただのカツアゲだもの。
「な……第三王子への献上を拒否すると言うのかっ!」
「はい、お断りいたします。」
「キサマっ!それがどういうことかわかっているのかっ!」
「はい、お断りいたします。」
「男爵程度の家など、簡単に取り潰し――」
「コーベイどの、そこまで。それ以上はいけません。」
やっと隊長が馬鹿を止めてくれた。うん、それ言っちゃったら完全に違法だものね。
ここまできてようやく、自分たちが無茶なこと言ってるって気付いたようだ。今まではこの恫喝紛いの要請で通ってきちゃってたんだろうなあ。
でも今回は残念ながら桁が違う。あんたらの小遣い稼ぎと一緒にしてもらっちゃ堪らんのだよ。
「ダーウィング男爵、大変失礼した。殿下はまだ十歳。外部との折衝の経験も少ないため、少々行き過ぎたようだ。許してはもらえないだろうか。」
「そう言っていただけるのなら、こちらとしても事を荒立てる気はございません。」
真摯に頭を下げる隊長。苦々し気な顔の従者ズ。ジョシュア殿下は……あ、なんで断られたのかわかってないな、こりゃ。
……何か変だぞ?王族の教育って早いんじゃなかったっけ?で、最初に教わるのが、王国の成り立ちと王国法のはず。十歳なら王国法は知ってるだろうに、なんでこんなキョトン顔だ?
その殿下が口を開いた。
「私はどうしても紙の製法を知りたいのだ。どうしたら教えてくれるのだ?たかが紙の作り方だろう?」
何言ってんだ?これにはこっちがキョトン顔だよ。
「ジョシュア殿下、失礼ながら、そのたかがで我々ダーウィング家とシューベリー商会は生活しております。製法を守るために、知る者はごく一部としておりますし、そう簡単にお教えするわけにはいかないのですよ。」
噛んで含めるような言い方をする父様。
「おおかた、そのエルフの姫にでも教えてもらったのだろう?権利を独り占めは良くないのではないか?」
……ん?私を指差してる?あ?エルフの姫って私のことか?なんだその思い込み!コイツの頭ん中どうなってんだよ!
「殿下……フィーリアは確かに愛らしく美しいですが、エルフなどではございません。正真正銘私どもの娘にございます。そして我々は、家族以外に紙の製法を教える気もございません。どうかご理解ください。」
と、父様……いらん娘自慢入ってるよ……。アンディ兄様も隣で頷いてるんじゃないよ……。後ろで一瞬シドがフゴって鼻を鳴らしたの、ちゃんと聞こえてたからな。
「家族以外……なんだ!ならば簡単なことではないか!私がその娘と家族になってやろう!それならば問題あるまい!」
…………へあ?なに?
「その娘、フィーリアと言ったか、私の側室にしてやろう!下級貴族の娘だから正妃にはできんが、第二妃なら上等であろう!」
え、え、え、エマージェンシーーーー!!!




