回避不可案件?
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ダーウィング家のフィーリアの執務室には、デスクに座ったフィーリアと脇に立つシド、それに相対するように六人の少年少女が立っていた。以前、シャハザールに頼まれていた、孤児の採用面接である。
「んー、全員うちで働きたい、ってのはいいとして、希望職種はないのかあ。」
「いやフィー様、そりゃそうでしょ。どんな仕事があるのか知らないんだから。商会だけじゃないぜ。ダーウィング家の下働きだって増やしてもおかしくないだろう。」
「あーまあそうか……」
ダーウィング家及びシューベリー商会の仕事は多岐に渡る。それこそ家内の下働きから、警備・工場作業・流通・販売……上げればキリがない。
フィーリアの手元には、各部署からの増員要請の書類が山と積まれていた。
「前にやった三騎士への対応と同じでいいんじゃないか?」
「そうね。順番は変わるけど、まずは増員要請してきてるところに順番に研修に行ってもらいましょうか。で、その後に、それまで回ったところでもいいし別に思い付いたものでもいいから、希望とか……何だったら将来の夢でもいいわ、報告書を提出してもらいましょう。それから配置を考えるわ。」
「うちは、機密も多いからな。研修前に全員に守秘契約を結んでもらうが、お前らもそれでいいか?」
シドが少年たちに聞く。
「「「「「「はい!」」」」」」
六人の少年少女は、元気良く返事をする。フィーリアは、彼らの目の輝きになんとなくシャハザールを思い出しながら、彼らのための指令書を綴った。
◆ sideフィーリア ◆
「フィー様、研究室行く前に、ちょっといいか?」
シドに呼び止められた。何なのよ。通信機の研究が大詰めなのよ。最優先で進めたいのに。
「例の森のお坊ちゃまたちについてだ。」
ぐわ!それ最優先だわ。
「お坊ちゃまはフィー様が睨んだ通り、王族、しかも第三王子だった。お互いに名乗らなかったのは正解だったな。」
はー、マジか。めんどくせーなー。
「今回移動中に襲撃されたのは公にはなってない。国内視察の一環でコックス領に向かっていたところだったみたいだな。第二騎士団の分隊一つが護衛に……なんだよ、その顔。あ、さてはあんた、王族とか騎士団とか全く覚えてねえな!」
バレた。そりゃ関心ないからね。国内情勢とか政治的なことなんかは、商売に関係ない限り覚える気にすらならない。
「あんなあ、関わりたくないってんなら、ちゃんと敵を知っとけよ。いつまでもブラン閣下におんぶに抱っこってワケにはいかないじゃねえか。」
ち、痛いところを。おっしゃる通りです、ハイ。
「とりあえずは、今回関わっちまったあたりだけでも説明するから、ちゃんと勉強しとけよ。まずお坊ちゃま、サウデリア王国第三王子で、名はジョシュア・バライアス・サウデリア。サウデリア国王アンドレス・シエドビイエル・アラヌス・サウデリアの第五子だ。」
待て!名前長っ!覚えらんないよ!
サウデリアの王族の名付け、面倒臭いことこの上ない。ミドルネームが入るのが王族の証なんだと。まあ、公式の場以外ではフルネームはほぼ使われることはないそうだが。
ちなみに王になると更にミドルネームが増える。そりゃ長くもなるはずだ。
今回出会ったお坊ちゃまは、第三王子のジョシュア。第二妃マグリエヌの息子で、王にとっては末っ子らしい。
んで、第二妃マグリエヌの実家ってのが、コックス侯爵家。紙の大手トステル商会の後ろ盾になってる家だ。あーこりゃ覚えとかなきゃいけない案件だわ。
ん?あれ?
「コックス領に第三王子が視察?母親の実家に単身で?それコックス家、っちゅーかトステル商会に呼ばれたんじゃないの?紙関係の圧力かけてきそうな気がするんだけど……」
「ふっ、流石に商売が絡むと鋭いな。たぶんそうだろう。第二妃に商会が泣きついたらしいからな。」
あらやだ、早晩うちに関わってきちゃうってことじゃない。えー、王族の対策しなきゃいけないのぉ?またダーウィング家で家族会議だあ。
「フィー様の顔をしっかり見たのは、第三王子と侍従と侍女、それに護衛騎士一人だったよな。護衛騎士は真面目で評価も高い。が、侍従と侍女はちょっと面倒かもな。」
シドに渡された調査書を読む。ふむ、何だこの小悪党感満載の立ち回りは。すぐ潰せそうだけど、潰し方が問題か。
第二騎士団第七分隊があの時の護衛隊か。あの分隊長と護衛騎士ならうちに欲しいなあ。まあ下手に引き抜きかけて王家との摩擦増やす気はないけどさ。
さて、どういう風に仕掛けてくるのかな?できるだけ小さく事を収めるには、まずグラン爺への根回しは必須だとして、家族での打ち合わせをしっかりしとかないとな。方向性としては…………
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
執務室の戸が小さくノックされた。そろりと扉が開き、ジョナスが顔を覗かせる。
「えーと、フィーリアが研究室になかなか来ないんで、様子見にきたんだけど……。もしかして取り込み中?」
「あー、いや、取り込み中って言うか……」
苦笑いのシドが親指でフィーリアを指す。
机にかじりついたフィーリアは、何かをぶつぶつと呟きながら時折手元の紙に何かを書き出している。ノックの音にもジョナスが入ってきたことにも気付いていない。
「ああ……フィーリア曰く『思考の海』ってやつか。なら邪魔しないほうが良いね。また何か思いついたの?」
「いや、どっちかってえと作戦の立案だな。ダーウィング家と商会のちょっとした危機が訪れそうなんでね。」
「危機……」
ジョナスの顔が青ざめる。
「フィーリアにとってのちょっとした危機、って、どう考えてもダーウィング家の存続の危機としか思えないんだけど。」
「ん、まあ、相手が王家だからな。」
「王家!」
「心配すんなよ。フィー様なら、最悪でも自分一人で事が済むように考えるはずだ。家は残るさ。」
「冗談じゃないよ!フィーリア一人を犠牲にしてまで家を残したいなんて、そんなこと思う人間はうちには一人もいないよ!そんなことするくらいなら全員で――」
「ジョナ兄うるさい。」
ジョナスの抗議はフィーリアにばっさり切られた。
「フィー様、目途は立ったのか?」
「ん~、遅かれ早かれ何らかの衝突はあると思ってたけど、ちょ~っと早かったかな。裏技必要になっちゃいそう。あと、森で助けたことで不確定要素が増えたのが面倒。リアクションが予想つかないもんなあ。」
「りあく……?まあいい、私めは何をすれば良いでしょうか、フィーリアお嬢サマ。」
「キモっ…今作戦の概要まとめて書き出すから、それ持ってブラン爺んとこ行って話つけてきて。アイナ使っていいから、なるべく早く戻ってね。」
「ふぃっフィーリア、僕も何か手伝えることがあるかい?」
「あーうん、今晩家族会議開けるように、みんなにお願いしてもらっていいかな。私はそれまでに必要な書類作っておくから。」
「わかった!」
ジョナスは執務室を飛び出した。
「……ジョナ兄って、頭良いのに馬鹿だよねえ。私だって同じように、家を犠牲にして自分が助かろうなんて思うわけないのに。」
「まあ、そう言ってやるなよ。フィー様のことが好きで好きでしょうがないだけなんだから。」
「あら、私だってジョナ兄大好きよ。……ところでシドはそこまでは私のこと好きじゃないのかしら?」
フィーリアはじっとシドを見つめる。
「おまっ……その歳で魔性の女とかやめろよ。」
シドがちょっと照れた。珍しいこともあるもんだ。




