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早く帰りたい

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 真っ暗な森の中、松明を持った騎士の一団が、鎧の金属音を微かに響かせながら進んでいる。先頭の騎士の胸元には、金線が三本入った隊章が付いている。


 三本線の騎士は、護衛隊の隊長をしていた。

 山道で、護衛対象の乗った馬車が賊に襲われた。交戦している間に、暴走した馬車が崖下に落ちてしまった。御者は崖上で振り落とされ、そのまま取り残されている。

 相当な高さの崖。馬車には、護衛対象の他、従者が男女一人ずつと騎士が一人乗っていた。従者はわからないが、護衛対象と騎士はあまり魔法が得手ではない。おそらく命はないだろう。

 それでも一縷の望みをかけ、賊を片付けたのち捜索に向かった。負傷した御者に騎士を一人付け近くの街へ向かわせ、残り全員で崖下へと向かう。せめて遺体か遺品の一つなり持ち帰らねば。




 隊長が右手を上げる。「止まれ」の合図だ。斥候役を近くに呼ぶ。


「何か……気配が変わった。辺りの様子を――待て!」


 隊を、緊張感が包む。一斉に剣に手をかけ戦闘態勢を取り、辺りの様子を伺う。

 そこに、声がした。


「そのまま動かないでね。周りを糸で囲んでるから、下手に動くと手足とか首とかなくなっちゃうよ。意外と切れ味良いの、それ。」


 高いが、落ち着いた声色。そっと見回すと、確かにそこらじゅうに微かに光る、魔力で作ったような細い糸が張り巡らされている。


「……何者だ。我々はサウデリア王国第二騎――」

「名乗りは結構」


 隊長の言葉が遮られる。


「何しにこの森へ来たのかだけ教えてくれる?」

「……姿も見せぬ相手に、そう易々と目的を教えるわけがないだろう。」

「ん~、それもそうね。」


 茂みの奥から、一人の少女が姿を現した。幼い、まだ七~八歳くらいに見える。不思議なことに、顔だけはぼんやりとしてよく見えない。


「認識阻害、か。いったい何者だ。」

「巻き込まれただけの一般人よ。さ、一応こうして姿を見せたんだから、目的を教えてもらえるかしら。」


 少女の姿で油断を誘っているのだろうか。だが敵意は感じられない。しばしの逡巡。


「――っつぅっ!」


 隊長の背後で声が聞こえた。


「あーほら、言ったじゃない。切れ味良いって。襲い掛からないって約束してくれるんなら、糸外すけど。」


 どうやら先走った騎士の一人が不用意に動き、負傷したらしい。


「全員、戦闘態勢を解け。手を出すな。」


 隊長の言葉に、騎士全員が剣から手を離す。


「んじゃ、糸消すね。ちょっとぉ、腕大丈夫?あーあ、半分取れかかっちゃってるじゃないの。治療するから見せなさい。」


 周りの糸が消え、負傷した騎士に近付いた少女は、そのまま治療を始めた。驚いたことに、あの細い糸は、触れただけの腕を鎧ごと切ったらしい。

 やがて治療が済んだのか、騎士が手をぐーぱー動かして確認し、丁寧に礼を伝えた。取れかけの腕を元通りにしたというのか、信じられないほど高度な治癒魔法だ。


「で、あなたたちは、誰の敵で誰の味方かな?」


 少女は、表情は見えないがおそらくにっこりと、首を傾げた。






「殿下っ!ご無事ですか!?」


 隊長の声に、護衛騎士は警戒を解き、焚火の周りで寝ていた三人が目を覚ます。


「隊長!良かった!賊は退けたのですね!」


 喜色満面の護衛騎士の顔を見て、隊長が驚く。護衛対象はもちろん、護衛騎士も従者たちも、どうやら本当に無事なようだ。更に馬たちまで傷一つない。

 馬車は横倒しになっており壊れているが、死人どころか怪我人すらいないというのはいったいどういうわけか。




 森で出会った少女は、隊長たちが敵ではないと判断すると、馬車の乗員が全員無事であることを教えてくれた。彼らが休んでいる場所まで案内してくれると言う。

 少女が空中に向かって何やらごにょごにょとつぶやくと、小さな光の玉が現れた。


「彼らのとこまでは、この精霊が連れてってくれるよ。私はそろそろ家に帰らないとだからね。」

「せ……精霊?この光は精霊なのか?」

「うん、光ってるけど光じゃなくて水の精霊だけどね。じゃ、精霊ちゃん、よろしくね。あなたたちはさようなら。護衛騎士さんによろしく伝えてね。」


 言い終えるや否や、少女の姿はかき消えた。




「隊長、あの、少女の姿を見ませんでしたか?狩人だと言うその少女に、我々は救われたのです。」

「少女、は、見た。顔は隠していたが。救われたとはどういうことだ?」


 護衛騎士は、馬車が崖から落ちたところから、騎士にこの場に待機するよう命じ、索敵に行ったところまで全てを隊長に話した。


「それで、あの方はどちらに?礼を申し上げねば。」

「いや、あの子は……お前は彼女の顔を見たのか?もう一度会えばわかるか?」

「はい、もちろん。美少女と言って差し支えないかと。あの見た目と魔力は、エルフか妖精かと自分は思います。」


(エルフ……妖精……確かに。それに精霊と話が……そうだ、あの水の精霊はどこへ行った?)


 隊長は辺りを見回したが、既に水の精霊は消えていた。


(これは……報告書を書くのに骨が折れそうだな……)


 考え込む隊長、目を輝かせている護衛騎士、ぐったりしているお坊ちゃま、やいやい喚き立てる従者たち。深い深い森の闇が、彼らを覆いつくしていた。




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