ビョヌは美味いか
◆ sideフィーリア ◆
暗い森の中、焚火を囲んでいる。馬車の中に毛布が数枚あったので、お坊ちゃまと侍女、それに侍従が毛布を被ってうずくまっている。
「必要以外喋ったら、全員放置して帰る」と脅しておいたので、何か言いたげな侍従も黙っている。夜の森(と私?)の恐ろしさは何となく伝わってるようで一安心。
「狩人どのはいつから狩人をなさっているのか?」
『狩人』は私の呼び名だ。いくら名乗りを拒否しても、一緒にいる以上呼び名がないと意思の疎通がしづらい、と言われたので、私が勝手に呼び名を決めた。
私は『狩人』、騎士は『騎士』、以下『侍従』『侍女』『お坊ちゃま』だ。お坊ちゃまだけ決められた時に何か言おうとしたが、侍従に止められて黙り込んだ。そんなに不満そうにするなって。たぶん大方間違ってはいないでしょ。
「さあ、いつからかな。もう何年もやってるね。」
「随分とおさな…少女のように見えるが、もしかして見た目の年齢と実際の年齢が離れていたりするのだろうか。その、エルフとか妖精とか……」
「…………」
「あ、いや、詮索するつもりはないのだ。気を悪くしたのなら許してくれ。」
エルフって存在すんのかーい!いや、妖精と並列で聞かれたんだから、伝説みたいなモンなのかな?でも精霊は実在してるしなあ。あとで誰かに聞いてみるか。
ん、三人組が何やらコソコソ話してるな。「何かないのか」とか「どうにかしろ」とか、お坊ちゃまが従者に無茶を言ってるようだ。
あー、腹減ったのか、コイツら。おやつは全部ワッカにあげたいから、コイツらにやるのも腹立たしいな。
「あんたたぶん護衛でしょ?ちょっとここ任せてもいい?」
「え、ど、どちらに……?」
「何か食料調達してくるよ。肉くらい狩れるだろうし。」
そう言って、焚火の一団から離れる。とりあえずは声の聞こえない所まで離れよう。
《ワッカ、近くにいる?》
『はーい。お疲れ様ねー。』
ワッカが隣に現れた。
「いやあ、まいったわ。アイツら焚火すらまともにできないでやんの。おまけに腹減ったってさ。何か狩るわ。」
『ふふ、それはお疲れさま。おやつはあげなかったの?』
「おやつはワッカの為に持って来たんだよー。アイツらにくれてやるなんて勿体ない。」
機嫌の良くなったワッカに、ビョヌのいそうなところを教えてもらう。せっかくだからやっぱり狩っておきたいし。
叱られても、もしかしたらお説教の時間がちょっぴり短くなるかもしれないしね。
結果、ビョヌが三匹と兎を一羽狩ることができた。ビョヌ二匹はお土産にしようかね。
「ワッカ、お願いがあるんだけど。うちに行ってシドかジョナ兄に状況説明しといてくれない?そろそろ転移分の魔力も回復するし、朝になる前に帰れると思う。」
『りょーかーい。話した後こっち戻って来る?』
「いや、機会見て勝手に帰るから、好きにしていいよ。」
『はーい。じゃあまたねー。』
おやつを受け取ったワッカが消える。さて、奴らのところに戻るとするか。
戻ってからがまた面倒臭かった。ぶら下げた兎とビョヌを見て、侍従・侍女・お坊ちゃまが大騒ぎ。お前ら肉食ったことないとでも言うんか、ぁあ?
仕方なしに、騎士に手伝わせてちゃっちゃと捌いて、そこらの枝を削って作った串に、一口大に切った肉を刺して焚火の周りに刺す。騎士はまあまあ使えるね。野営の訓練くらいするだろうしね。
「ほら、こっちもう焼けてるよ。」
塩胡椒して差し出したビョヌの串焼きに、なかなか手を伸ばさないお坊ちゃま。ホント面倒臭い。
「これ、超高級食材なんだけどな。あんたの口には合わないかな?」
煽ってやるとムッとして串を受け取るお坊ちゃま。やや逡巡したあと、えいやっ!とかぶりつく。と、表情がぱああぁっと明るくなった。そのままむしゃむしゃと夢中で食べてる。
お坊ちゃまのその様子を見て、侍従と侍女も恐る恐る食べ始め、ぱああぁっとなる。そうか、美味いか、良かったな。てか、常識的に考えると、お前らがお坊ちゃまより先に食べて毒見をするモンでないのかい?
騎士は残ったら食うスタンスなのか、そんな三人を見守っていた。ふとこちらを見る。
「食事を終えたらお三人には休んでいただこうかと思っているのだが、交代で見張りをお願いしていいだろうか?」
てめえこの野郎、良いも悪いもそのつもりで私を引き留めたんだろうが。
「ひとつ聞いていい?崖上で、たぶん戦闘だと思うんだけど、してたよね?ここにあんたらを探しに来るのが味方ならいいけど、敵だった場合、私はどうすりゃいいの?」
騎士は、考えてもみなかったようだ。目を丸くしたのち、少し考えこむ。
「味方が、我が騎士団がそう易々と負けるとは考えにくい。だが万一賊がここに来たら、でん…お坊ちゃまたちを守って、私と共に戦ってはくれないだろうか?」
ぅえぇぇ、お前色々と脇が甘いよ。『我が騎士団』てなんだよ。しかも『でん…』って、考えたくないけどもしかして『でんか』って言おうとしたか?超絶関わりたくねええ!
「……確約はできないよ。面倒事はごめんだ。」
「可能な限りでいい。助力を頼む。」
頭下げられちゃった。まあ、見捨てないでここに残って、しかも食料まで調達してきちゃったからなあ。たぶん当てにしてんだろうなあ……。
騎士を先に休ませ、見張りに付いた。さて、どのタイミングで抜け出せばいいかなあ。
転移できる程度の魔力はもう回復してる。自分をそこまでお人好しとは思ってないが、これで敵襲があってアイツら全滅とかしちゃったら、寝覚めが悪いもんなあ。
そんなことをデモデモダッテと考えていたら、遠くに人の気配を感じた。十……四人か。さすがに目視しないと様子はわからんね。まだ結構距離はあるけど、さて、どうするかね。
いかにもな賊だったら、問答無用で潰したっていいんだけど、その判断つくかなあ。やだなあ、関わりたくないなあ。
後ろの寝ていた奴らの様子を伺うと、私の気配が変わったのを感じたのか騎士が起きてこちらを見ている。
手振りでそのままステイを伝えると、頷いた。コイツなかなか優秀だよな。
はっきりとした方針が決まらないまま、とりあえず私は謎の集団のほうへと走り出した。




