晴れ、時々馬車
◆ sideフィーリア ◆
山裾、崖下になってるところまで来た。てか、日が落ちるまでに帰りたいんだけどなあ。
『夕方くらいになったらのそのそ現れると思うわ。とっ捕まえてすぐ戻ればいいわよ。』
ん、まあ、せっかくここまで来たんだしね。
待つのも狩りの基本ですから、と、収納からおやつを出して、そこらの岩に腰掛けてワッカと一休み。これじゃあピクニックだけどね。ワッカと出掛ける時は大抵こうなる。
「なんか……上、騒がしくない?」
『この崖の上って、確か道が通ってたと思うわ。なんかあったのかしら?』
崖の上から……人の声……悲鳴……金属音、剣戟の音か。ぅわ……なんか厄介ごとの予感。こりゃサクッとバックレるのが吉と見た。
「ワッカ、ここ離れよう。」
おやつをしまって立ち上がり、ワッカを促す――と上から大きな音がした。見上げると、わわわ!石が降って来る!たまらず風魔法で吹き飛ばす――
『フィーリアちゃん!あれ!』
ぎゃー!馬車が丸ごと降って来た!風魔法!吹き飛ばさないように!キープ!わ、わ、馬車がローリングしちゃう!押さえて押さえて!ゆっくり、そうゆっくり。キープしたままゆっくり降ろすんだ。そう、ゆっくり……
ドガシャ!
残り一メートルくらいで限界が来た。横倒しの馬車。しゃーねーじゃん、落ちてきた時からもう横になってたんだもの。
横倒しの馬車の扉が開けられ、中から鎧姿の騎士がよじ登って出てきた。
「た……助かった……」
おっと、ワッカ見られたらちょっと困るかな?と思ったら、ワッカはとっとと姿を消していた。デキるコだねえ。
「あなたは……?落ちる途中魔法で押し上げられるのを感じたが、もしやあなたが助けてくれたのか?感謝する!」
馬車の中から怒号がした。騎士がガシャガシャと鎧の音をたてながら、中から人を引っ張り上げる。
中からもう三人。従者と侍女とお坊ちゃま、ってところか。良い服着てるしなあ。ま、そもそも馬車が立派なんだが。
おっと、そうだ、馬を見なきゃ。馬は四頭、一頭脚を痛めたみたいだ。ごめんね、最後の最後に落としちゃって。今治してあげるからね。
馬を治療してると、さっきの騎士が話しかけてきた。
「馬を治療してくださってるのか?ありがたい。ところであなたは――」
「おい!そこの子供!治癒魔法を持ってるのか?持ってるなら先にこっちを治療しろ!」
騎士を遮って、従者っぽい男が喚いた。侍女っぽい女は、腰が抜けたらしいお坊ちゃまを抱きかかえている。
なんかコイツら嫌いだ。
「断る。」
全員がぽっか~んとアホ面になった。
「見たところたいした怪我もなさそうだし、たんこぶとか擦り傷なんかはどうでもいいでしょ。馬のほうが大事。」
従者っぽい男の顔が、みるみる赤くなっていく。
「きっ、きっさまあ!この方をどなただと――――」
全員地面に這いつくばった。前に野盗の残党にやった「どーん」の応用。魔力塊で上から押さえつけるだけ。対抗しようと体に力入るから、声も出にくくなるのよね。
「名乗りは結構。こちらもこんな礼儀知らずに名乗る気はないわ。馬は治ったし、これで失礼するわね。」
背中を向けて歩き出す。もうちょっと離れたら解放してやろう。
「……ま……待って……く……れ……」
騎士に呼び止められた。コイツは……まあ大丈夫かな?騎士だけを魔力の圧力から解放する。
「……ふぅ……たいへん失礼した。互いに名乗りは不要と言うなら尊重しよう。」
「……で、なに?」
「あ、その、道を教えてはもらえないだろうか。この森はほとんど人が入らないと聞いている。せめて街道の方向だけでも教えてもらえると助かる。」
し……知らんがな。初めて、しかも空から来た森だし。
私だってさっきの馬車助けるので、残しておいた転移用の魔力ほぼ使い切っちゃったんだから困ってんのよ。自宅までそこそこ距離あるから、転移するには魔力が足りない。
コイツらから距離取ったらヴェントかアイナ呼んで帰ろうと思ってたのに。
「……じきに迎えが来るんじゃないの?それまで焚火でもして大人しく待ってなさいよ。」
「しかし……」
「あのねえ、もうすぐ日が落ちるのよ。暗い中知らない森を歩くのが危険だなんて、子供だってわかってるわ。」
「あなたも子供に見えるが……」
「わっ私は優秀な狩人だから大丈夫なのよっ!」
やべ、自分の見た目忘れてた。七歳の女児でしたわん。
「そ、それなら頼みがある。我々は森には不慣れだ。迎えが来るまで一緒にいてはもらえないだろうか。謝礼はする。」
はああー?マジかあ!これ見捨てたらダメなやつ?てか私ってば女児なんで、暗くなってもおうちに帰らないとか、めっちゃ叱られる事案なんですけどーーー!




