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ムクロジ(仮)

◆ sideフィーリア ◆




「たぶん、一つの共鳴石に対して、五人までは同時に使えるようにできると思う。」


 ちょ……ジョナ兄、目の下真っ黒だよ。


「そこまで正確ではないけど、この魔道具で共鳴石への馴染み具合がわかるから、最大五人を想定して一人分ずつの目盛りを打っておいた。ちょっと時間はかかるけど、魔力一でも定量馴染ませれば問題なく使えるよ。」

「計測……って、どうしたの?この魔道具。わざわざ()()()に開発したの?」

「ワッカが遊びにきてね、相談したらヴェントを呼んでくれたんだ。で、三人で作った。幸い材料はたくさんあるし、作るのは一台だけでいいからね。」


 マジか!ジョナ兄凄いな!


「あとは、魔法陣の改良と魔法回路の調整だ。そこは僕の担当じゃないからね。僕はちょっと寝るよ。」

「あ、あの、ジョナ兄、寝る前にお風呂入ったら?ちょっと、その、臭うよ……」

「ああ、ワッカにも言われた。でも先に寝るよ。限界なんだ。あ、風呂で思い出したけど、()()()()?がもうないんだ。取ってきておいて。じゃあ後は頼んだよ。」


 ジョナ兄はフラフラと研究室を出て行った。


 お……お疲れ様です……。






 それは意外な光景だった。


 山裾にポツンと佇む小さな湖…いや、沼。どこまでも深い緑色。その沼の真ん中らへんに、蓮の葉にもじゃもじゃと長い毛を()やしたような物体が浮かんでいる。


「え~と、ワッカ?私、前にもらった丸い()()()が欲しいって言ったんだけど……」

『え?あわあわになる()でしょ?アレがそうよぉ。』

「だ、だってアレ、木じゃないじゃん!」

()()()だなんて言ったっけ?()()()()よ。』


 ……確かに、『木の実』とは言ってなかったかもしれない。私が勝手にそう思っただけ……か?


 ワッカに『()』を収穫に行きたい、と言ったら、なぜか一緒にいたらしいヴェントも来て、背に乗せてもらった。

 ワッカの先導で北西に向かい、王都の手前にある山の麓で降ろされた。えーと、王都の北東あたりだから……げ!にっくきコックス侯爵領じゃないの?いや、コックス侯爵は別に憎くないか。子飼いのトステル商会がうちとうちの紙を敵視してるだけで。

 帰りは転移で帰るのでヴェントとはそこで別れ、広葉樹の中にまばらに針葉樹が混じる雑木林の中、笹藪みたいのを漕いで先へ向かった。そしてちょっと開けたと思ったら、沼があったわけだ。


「アレ、どうやって採るの?」

『風魔法か水魔法で巻き上げて引っこ抜くのよ。』


 言うと同時に、ワッカが水を巻き上げもじゃもじゃを抜いた。

 もじゃもじゃの下には、蓮根みたいにピンポン玉大の物体がズルズル繋がっている。巨大なボールチェーンみたいだ。


「これが……()?」

『植物に()ってるんだもの、()なんじゃない?』


 あー、そういう基準……いやどう考えても根か地下茎かのどっちかじゃん!

 そう言えば、もらった()の中に種は入っていなかった。正月にやる羽根つきの黒い丸玉がムクロジの種だよね?てことは……やっぱり()じゃないじゃん!

 まあ、この世界での話なんだから、もう()でいいけどさあ。


『アンタもどんどん採ってよ。たくさん欲しいんでしょ?近くに奇麗な小川あるから、そこで洗ってってもいいし。』


 ワッカが水魔法なら、私は風魔法にしようかな。最近全然練習してないし。


 ワッカと二人で大量に採取。目の粗い袋を持ってきてたので、それに詰めて重力魔法でちょっとだけ重さを軽減し、そこに風魔法でちょっと浮かせて川まで運ぶ。

 まだまだこの実使いそうだし、仮の名前でも付けておこうかな。ん~……ムクロジでいっか。ジョナ兄ももうそう呼んでるし。


 川でじゃぶじゃぶ洗って、風魔法で軽く乾燥させて収納へ。あの沼のでろでろしたのが付いたまんまじゃ収納入れたくなかったし、洗えて良かった。


「この植物って家でも栽培できるかなあ。」

『ダメじゃない?三か所くらいでしか見かけたことないけど、どれもドロドロの沼にしかなかったわよ。奇麗な水には育たないんじゃないかしら?』


 じゃダメだ。庭にあんな()()()あるのは嫌。まあこれで場所も覚えたし、時々採りにくればいいか。


『今日は随分風魔法使ったわね。ヴェントが『(あるじ)は風魔法が下手くそなのに、修行する気もないようだ』ってこぼしてたわよ。』

「下手くそて……まあそうだけど。だから今日頑張って練習したじゃない。もう帰りの転移分くらいの魔力しか残ってないよ。」

『あはは、下手だと魔力消費激しいもんねえ。頑張った頑張った。えらいえらい。』


 なんだよう、子供扱いすんなよう。子供だけど。


『さて、そろそろ帰る?』

「せっかく初めての森に来たんだし、何かお土産狩ってかえろうかな。ここら辺何がいるの?」

『ここらで人間が食べて美味しそうな物かあ。兎と鹿はよく見るわね。……あ、ビョヌってのがいるわよ。たま~に人間が狩りにくるわ。超高級食材とか言ってたような気がする。』

「ビョヌ……あんまり美味しそうには聞こえない名前だけど、超高級食材ってんならちょっと欲しいかな。大きいの?魔物?」

『兎よりひとまわり大きいくらいよ。魔物じゃあないわ。(ふき)の葉みたいな尻尾で、地面を叩いて飛び上がるの。ん~とね、ちょっと行った山側にいるんじゃないかしら。』


 なんだかワッカの説明じゃあんまり想像がつかないけど、そんなに大きくないみたいだし、狙ってみようかな。食材として認知されてんなら、たぶんマーサがわかるだろうし。

 マーサは普段無口だし、淡々と仕事をこなすタイプだけど、こと料理となると凄まじい知識と情熱を持っている。だいたいうちのメイドやってるのだって、魔物を美味しく調理するスキルを身に着けたいから、ってんだもの。うちにいれば魔物には事欠かないしね。だからうちにはあえて料理人は置いていないのだ。


 私が日本食が恋しくならないのって、ほぼマーサのおかげだよね。まあ単に、私に食チートできるだけの知識がないせいもあるけどさ。




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