うっかり
◆ sideフィーリア ◆
「通信機って、量産するつもりなの?」
自宅研究室で、ジョナ兄に聞かれた。
「いやあ、軍事転用容易なシロモノだし、量産するつもりはないよ。てか、材料が材料だし、作れるのもたぶん私だけだしね。」
文字伝達だけの通信機とは言え、材料が酷い。
オリハルコンの板に極細のミスリルで複雑な魔法陣と魔法回路を刻み、切断した共鳴石を埋め込み、特製の人造魔石をセットする。更に表示面以外を竜鱗を加工した物でコーティングしなければならない。書き込みに必要なペンは、竜爪とオリハルコンを加工した物だ。
私だって、ドラゴンの長に貰った物が無ければ、材料はおそらく揃えきれないだろう。
「そっか。じゃあ全部で何セット用意するの?」
「ん~、とりあえずブラン爺んとことシューベリー商会は確定かな。製紙工場と魔珠工場もあるといいかもね。」
「四セットか。こことアマトはいいの?」
「うん、通信機じゃなくても、私とジョナ兄、私とシドで共鳴石そのまま持ってればよくない?私からは「行くよ」の合図、ジョナ兄とシドからは「来て」の合図で。」
呼び出し機能さえあれば、私一人なら転移でホイホイ行けちゃうもんね。
「それなんだがな、フィー様。」
実験の手伝いをしていたシドが、ちょっと遠慮がちに声をかけてきた。珍しい。
「それ、誰でも伝言送れるのか?」
「ん?まあ、アマトで純正の魔素充填してるだけだからね。」
「使用者限定にできないか?」
限定……できないことはないよな。ドラゴンだって一度飲み込んで自分の魔力を馴染ませて使ってるんだから。
「あのな、万一盗まれたりしたら、そいつがそのまま使えることになるだろ?それに例えば、ここに忍び込んでフィー様の振りをして、ブラン閣下を呼び出すような伝言をすれば、閣下を罠にかけることだってできるかもしれない。逆もだ。釣り出されるのがフィー様ならまだいいが、ジョナス様や他の人間が呼び出されたら……」
はー!そんなこと考えもしなかった!けど言われてみればそりゃそうだ。
「そう言や長の石だって、受け取った時に双方向にするのに魔力入れたもんなあ。二人は確実にイケるけど、それ以上ってどうなんだろ?」
「あー……実験、だよね。魔力量の多寡でどうなるかの検証もしなくちゃ。僕とフィーリアとシドで三以上は検証できるけど。二はトビアスか。一……って誰かいたっけ?」
「そこまで検証が必要なのか?」
「だってトマスは一なんでしょ?グラントさんは聞いたことないけど、多そうには思えないし。と言うか、検証実験なんだから全部やるに決まってるだろ。」
「うへぁ……失礼いたしました。」
わーコレ下手したら魔法陣と魔力回路も組み直しだぁ。
「えーと、私、魔珠工場優先して終わらせてもいいかな?結界と隠蔽かけっぱなしだし、図面は出来上がってるから四~五日で形になると思う。」
「……いいけど……。そっちの建材の合成とか魔道具の調整とかは自分でやってね。僕はこっちにかかりきりになるから。」
「ハイ、よろしくお願いシマス……」
アイナとセイクナが待つ魔珠工場の建設予定地に行ってみると、驚くことに地下の構造、つまり魔珠充填機構に当たる部分がほぼ完成していた。セイクナがアイナに図面を見せて、二人で頑張ってくれたらしい。
「あ、フィーリア様―っ!こんな感じでどうですかー?」
くっ、私を見つけぶんぶんと手を振るセイクナの笑顔が眩しい。
『一応は図面通りです。セイクナが張り切っていましたよ。良き信者を見つけられましたね。』
信者ってなんだ信者って。まあでも助かった。これなら魔道具設置して調整すれば、すぐ上物にかかれそうだ。
私は早速空間収納から魔道具用の魔鉱板を数枚取り出した。と、シドとセイクナが目を剥いて固まっている。
「ちょ……フィー様、今それどこから出した?」
「こっこれ……私が知って良いことなんですか……?」
あれ?シドだって、私がクダンに収納魔法教えてもらったのは知ってるよね?まああの時は、未完成?不完全?そんなようなこと言ってたけど。
あの後頑張って研究して、やっと使えるようになったんだぞー、って、あら?魔法の研究ってほぼアマトだから一人で……あ、シドにも言ってなかったかも。てへ。
魔道具をちゃちゃっと設置して、次は上物だな。周り何にもないから建材たっぷり用意しといて良かった。
収納から石材をどどどんっと取り出して、内装用の木材はこっちに積んでおこうかな。漆喰擬きも何樽も持ってきたから出しておいて、と。これはまた精霊獣のみんな呼んで、わいわい塗ろうかな。
「フィー様……」
あら?シドの顔に青筋が見えるわ。
「……帰ったら、ゆ~~~っくり話聞かせてもらうからな。」
あははー、んじゃ出来上がるまで帰らないでおこうかなー。ひ~ん、帰りたくないよぉ……




